MONOist 境界領域に迫る方法としてオープンイノベーションが注目されていますが、産総研での取り組み状況はいかがですか。
瀬戸氏 イノベーション推進本部そのものがオープンイノベーションを目的とした組織ではあるが、オープンイノベーションの手法そのものがうまくいく分野とそうではない分野があるように感じている。
オープンイノベーションが成立しやすいのは、共通基盤があり組むことで垂直統合的なビジネスモデルが描ける形だ。例えば太陽光発電などは、各社が求める技術革新がほぼ同じ分野であり共同研究する場合でも理解が得やすかった。SiC(炭化ケイ素)を用いたパワー半導体なども1社で研究開発を行うには限界がある一方で、それぞれの企業が組むことで、垂直統合型のビジネスモデルが構築でき出口戦略が描きやすかったことから取り組みが進んだ。
また、2013年6月26日にはナノテクノロジー(ナノテク)分野の研究開発および人材育成拠点として、物質・材料研究機構、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構などと協力して運営する「つくばイノベーションアリーナ(TIA-nano)」の新拠点を設立した。こういう基礎研究や先端研究は、成果がすぐには出にくいため研究企業のコストや労力の負担を分配することで軽減するなど、相互が得られるメリットが明確で、共同で進めやすいように思う。
その他では、植物工場やロボット、MRAM(磁気抵抗メモリ)、水素安全、再生医療分野などでオープンイノベーションの成果を出せている。
一方で、オープンイノベーションが成立しにくいのは、製品に直結し競合関係による影響が出る分野や、1社の技術力が突出しており、その企業にとってのメリットが考えにくい分野などだ。また、イノベーションには出口戦略が大切だと指摘したが、自社の技術の優先度や、組むことによってどういう結果を生み出すのか、という技術戦略を明確にすることが、オープンイノベーションに取り組む条件だと見ている。
MONOist オープンイノベーション以外でイノベーションを生み出すアプローチとしてはどういうものがありますか。
瀬戸氏 イノベーションを生み出す可能性が多いのはリスクを取って新たなチャレンジができるベンチャー企業だ。ベンチャー創出がイノベーションの大きな鍵となるだろう。大企業は組織が大きく新たなモノを生み出すにはスピードが不足している。先進的な取り組みを行うベンチャーをより多く育てることで、イノベーションが生まれると考えている。
産総研もさまざまな「産総研発ベンチャー」を生み出してきた。創設以来110社以上のベンチャーを生み出し、現在でも80社が活動している。そのうち11社がM&Aにより買収され1社が上場している。また2012年6月には、産総研内にあった顔認識技術の知財を活用しカーブアウト(事業の一部を切り出し第三者の出資などを受けて企業化する手法のこと)の形態で設立したサイトセンシングのような例もある。
イノベーション推進本部内に設置したベンチャー開発部では、ベンチャー企業に「スタートアップアドバイザー」を派遣し、事業化に向けた活動を行う仕組みなども用意しており、ベンチャー企業育成に力を注いでいる。
MONOist 今後の目標としてはどういうことを考えていますか。
瀬戸氏 産総研として研究開発力が基盤になるのは大前提だが、技術シーズを公開してもその技術が求められていなければ、意味がない。高い技術力で、世の中に必要な技術を生み出す。その上で、その技術をイノベーションにつなげていくことが必要だ。
技術だけではイノベーションは起こせない。特に重要なのがマーケティングの観点だ。そういう部分で企業や大学と協力し合える環境を作ることがイノベーション推進本部の役割だと考えている。そのためには、計測基準の標準化など、さまざまな土台づくりが必要になる。地道な環境づくりを進めていく。
その結果として、日本の社会に貢献できるような技術を世に送り出したいと考えている。日本は社会課題の先進国とも言われている。エネルギーや農業など日本の課題を解決することが将来の世界の課題にもつながる。これらに貢献する技術を世に送り出し、イノベーションを創出していきたい。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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