日本の酒造りをもっと自由に 若き醸造家が「クラフトサケ」で呼び覚ます文化新製品開発に挑むモノづくり企業たち(8)(1/3 ページ)

本連載では、応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げ、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第8回では、「酒づくりをもっと自由に」という思いのもと、「クラフトサケ」という新たなジャンルの酒づくりに挑むhaccobaの事例を紹介する。

» 2025年01月14日 06時00分 公開
[長島清香MONOist]

市場環境が変わる中、B2B事業で培った技術を生かして新たにB2C製品を作るモノづくり企業が増えている。大きなチャンスだが、今までと異なる機軸で新製品を作る上では大変な苦労もあるだろう。本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」のプロジェクトをピックアップし、B2C製品の企画から開発、販売に至るまでのストーリーをお伝えしたい。


 2024年12月、日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されることが決定した。しかし、日本酒業界の現状に目を向けると、厳しい実態が浮かび上がる。日本酒の製造免許を持つ酒蔵の数は、1970年代の約3500軒から2021年には約1100軒にまで減少。さらに、出荷量も1973年度に約177万kl(キロリットル)のピークを記録した後、2023年には約39万klにまで落ち込んでいる。

haccobaの「はなうたホップス -2023BY No4-」 haccobaの「はなうたホップス -2023BY No4-」[クリックして拡大] 出所:haccoba

 このような状況下で、業界に新たな風を吹き込む存在として注目されているのが、2021年より日本酒の製造を開始した福島県南相馬市の酒蔵「haccoba(ハッコウバ) -Craft Sake Brewery-」だ。古来の「どぶろく」のレシピを参考に、米に他の材料を加えて独自の酒造りに挑戦している。

 流通網も直販を中心に独自開拓し、さまざまなアーティストとのコラボレーションなども積極的に展開中だ。新商品は発売直後に完売するほどの人気で、2023年7月には2軒目の醸造所もオープンした。

 今回は、haccoba 代表取締役の佐藤太亮氏に、日本における酒造りを取り巻く環境や同社の思いについて話を伺った。

「酒を造る楽しさ」があった時代に立ち返る

――現在、酒蔵をイチから立ち上げるのは非常にまれな試みだと思います。「haccoba -Craft Sake Brewery-」設立の背景やいきさつを教えてください。

佐藤太亮氏(以下、佐藤氏) 何か特定の問題を解決したいというよりは、純粋に酒造りのロマンに引かれて創業した、というのが正直なところです。現代の日本酒は、資本主義の中で工業化が進む過程で、確立された定義や画一的な製法に基づいて造るのが主流となりました。しかし、かつては家庭でお酒を造ることができた時代があったんです。

haccoba代表取締役の佐藤太亮氏 haccoba代表取締役の佐藤太亮氏 出所:haccoba

 かねて僕には、日本人は普段からお酒を飲むことを楽しんでいるけれども、一方で、「お酒を造る楽しさを忘れさせられてしまったのではないか」という思いがありました。かつての酒造りレシピをまとめた本などをひもとくと、お米以外にもさまざまな原料を使った酒造りが家庭で当たり前のように行われていた時代があったのだと分かります。

 そうしたレシピには、もしかすると、現在流通している日本酒以上に「おいしい」と感じてもらえるお酒が眠っている可能性もあるのではないか、と思いました。そこから、その時代の自由なレシピや民俗的な酒造りの精神に立ち返ってお酒を造りたいという思いが湧いてきました。

――酒蔵で修行して、それからわずか1年でご自身の酒蔵を立ち上げられていますね。

佐藤氏 もともと修行と立ち上げの準備は同時並行で進めるつもりでいました。どの地域に酒蔵を作るかなど見当を付けてから修行を始めました。修行先には恵まれて、一年間で酒造りの全行程を担当させてもらいましたね。新規のお酒をタンク1個丸々造り、実際に販売していただきました。

 いちスタッフとして仕事をするのと、責任者として酒造りに関わるのでは見える景色が全く違います。そういう酒蔵さんに出会えて修行できたのは、ほとんど奇跡だと思っています。

haccobaの醸造所 haccobaの醸造所[クリックして拡大] 出所:haccoba
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