――酒造りについて、モノづくりの観点からお伺いします。お酒の品質管理について、気を付けていらっしゃる点などはありますか。
佐藤氏 一番はお酒の品質に直結する掃除ですね。目に見える汚れだけでなく、見えない菌にも注意しないといけません。酒造り自体がこうじ菌などを扱う仕事なので、どこにどの菌がいる可能性があるかを把握しておく必要があるのです。
そのため、適切な掃除の方法を考え、目に見えない汚れにも敏感であり続け、常に清潔さを保つことが重要です。発酵に何か問題が生じた際には、修行した酒蔵での経験を生かしたり、試験研究機関の先生方の意見を参考にしたりするなどしています。
――最初に作った醸造所は民家をリノベーションしたものですね。酒造りに適した条件の物件を探すのは難しかったのではないでしょうか。
佐藤氏 当時想定していた製造規模が大きくなかったのもありますが、実は、環境面での制約条件は意外と少なかったんです。むしろ苦労したのは、「酒蔵にしたい」と伝えて快く物件を貸してくれる方を見つけることでした。なんとか一般的な民家をお貸しいただき、リノベーションして50m2程度の醸造所に仕上げました。
電源は家庭用の100V電源をそのまま使っていますし、品温管理機能があるタンクを採用したので、室温管理用の機器は基本的に追加導入せずに済みました。一応冷房も入れていますが、使用していません。2つ目の醸造所は大規模で電源も200Vになり、多少は工場のような設備になったかもしれませんね。
――お酒の製造過程はどの程度、機械化しているのでしょうか。
佐藤氏 私たちの酒蔵では、一般家庭向けのスマートホーム用機器を活用しています。例えば、こうじを作る際の温度や湿度の制御のため、こうした機器を組み合わせて、特定の条件下でヒーターの電源が自動的にオンになるよう設定しています。
役立っているのがAlexaです。音声操作でスマートホーム用機器を制御できる手軽さもありますが、ハンズフリーで使えるのでスイッチに触れる必要がありません。手洗いの回数を減らせるなど、衛生面を改善できました。もともとWeb系のスタートアップ企業に在籍していたこともあり、ガジェットやアプリに興味があったので、これらを積極的に活用しています。
――過去に酒蔵の設備投資資金を募るためにMakuakeを活用されていますが、きっかけを教えてください。
佐藤氏 スープ専門店「Soup Stock Tokyo」などを運営するスマイルズのマーケティング本※の言葉を使うと、従来の日本酒ブランドは、「顧客と宗教的な関係を築くパターン」が多かったと思います。しかし、私たちはお客さまに対してより共感的で、より距離の近い関係性を築きたいと考えました。もちろん憧れのブランドでもありたいのですが、みんなで酒蔵を育てていく感覚を共有したいと思ったんです。
※2:日経BP「自分が欲しいものだけ創る! スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング」(2019)
そもそも現代の日本では珍しい、酒蔵を立ち上げる過程を一緒に楽しんでもらいたい。Makuakeにはそうした共感的な関係性を築いたという事例も多かったので利用しています。定番酒をみんなで決めよう、という目玉のリターン品も用意しました。
今でもMakuakeを初めて利用した当時から応援してくださっている方々が、一緒に僕たちの活動を広めてくださっていますし、無償のサポーターとして常に味方でいてくれます。イベントなどでお会いすると、「こんなことをやってみたら?」とアドバイスをいただくこともあり、共にブランドを育てていただいているなと実感しています。
――今後の展望を教えてください。
佐藤氏 現在は直販の他に酒屋さんへの卸や、海外輸出など流通チャネルを増やしているところです。すでに香港やシンガポール、タイ、オランダで販売を始めており、これから米国や台湾などに進出するための準備を進めています。
加えて、ベルギーで酒の醸造も計画しています。ベルギービール、特に野生のビール酵母を使ってオークバレルで発酵させるランビックビールが好きなのですが、その製法を日本酒に取り入れて、日本酒でもランビックモチーフのお酒を造ろうと思っているんです。すでに試作も始めています。
現地で酒造りに取り組むなかで、まだ見ぬめちゃくちゃおいしい酒を造りたいです。一方で、純粋な日本酒も造り続けたいと思っていますので、僕たちのお酒に興味を持ってくれた方々には、よりハイエンドな商品をご提供するなど、両軸でやっていきたいですね。
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長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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