B2C製品作りで“攻めの工場”へ、独自構造の「ぬか漬け容器」に映る町工場の狙い新製品開発に挑むモノづくり企業たち(2)(1/3 ページ)

本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げて、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第2回はMOLATURAのぬか漬け容器「omou」を取り上げる。

» 2024年03月14日 10時00分 公開
[長島清香MONOist]

市場環境が変わる中、B2B事業で培った技術を生かして新たにB2C製品を作るモノづくり企業が増えている。大きなチャンスだが、今までと異なる機軸で新製品を作る上では大変な苦労もあるだろう。本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」のプロジェクトをピックアップし、B2C製品の企画から開発、販売に至るまでのストーリーをお伝えしたい。


 「omou」という、高い密閉性を実現したぬか漬け容器がある。中日新聞社が主催するプロダクトデザインコンテスト「東海プロダクトデザインアワード」で最優秀作品を受賞した、滋賀県立大学の学生のアイデアをMOLATURAという企業が製品化した。

omouの外観 omouの外観[クリックして拡大] 出所:MOLATURA

 四日市の伝統工芸である「萬古焼(ばんこやき)」に独自の二重構造を取り入れたことで、ぬか床の温度を一定に保って発酵菌の活動を促す。通常は経験や時間が必要とされるぬか漬けを、野菜を入れて週に一度かき混ぜるだけで簡単に作れるのが特徴だ。

omouを使ったぬか漬けづくり omouを使ったぬか漬けづくり[クリックして拡大] 出所:MOLATURA

 MOLATURAは、1000分の1mm(1μm)という高精度で航空宇宙部品などの加工を行う三重県四日市の切削会社、中村製作所の自社ブランド製品を手掛ける企業である。中村製作所が培ってきた切削加工技術を生かしつつ、チタン製印鑑「SAMURA-IN(サムライン)」や蓄熱調理土鍋「best pot(ベストポット)」など、枠にはまらない製品を世に送り出してきた。

 かつての中村製作所は機械部品の加工を手掛ける町工場であったという。加工の精密性は高く評価されており、H3ロケットの部品製造も担当した。その企業がなぜ、調理器具や陶器のようなB2C製品も手掛けているのだろうか。今回は、omouの開発背景や今後の展開について、MOLATURAの代表取締役である山添卓也氏に話を聞いた。

独自の二重構造を使った「萬古焼」のぬか漬け容器

――omouについて、技術的な工夫点を中心に製品の特徴を教えてください。

中村製作所の山添卓也氏 中村製作所の山添卓也氏 出所:MOLATURA

山添卓也氏(山添氏) 過去に当社のbest potで採用した、容器の二重構造を取り入れた点が最大の特徴です。外部の気温変化に左右されることなく、安定した条件で発酵食品を作ることができます。

 これまでに当社もbest potの使い方として、発酵食品づくりの提案はしていたのですが、鍋のサイズでは家庭向けの発酵食品を作るのに大きすぎる、という問題がありました。今回、学生の方が発案した「1人用の容器」というアイデアは私たちにはなかった発想です。ぬか漬けの他にもヨーグルトやチーズのみそ漬けなど、個人の趣味趣向に合わせた発酵食品を少量から作れます。

――具体的な利用シーンや想定ユーザーを教えてください。

山添氏 忙しい現代人にも手軽に、伝統的なぬか漬けを楽しんでほしいというのがコンセプトです。それ以外にも学生さんの思いとして、「これから一人暮らしを始める新社会人が、仕事に疲れて家に帰ったときに家族の味を感じられるような存在であってほしい」というものがあります。「omou」というネーミングにも、おばあちゃんの知恵、お母さんの愛情などの「思いやり」を、次世代へとつなげるといった思いが込められています。

厳密な密封性が逆効果に

――開発に当たって苦労した点はありますか。

山添氏 陶器の性質上、二重構造にすることで焼成の際にゆがみが出やすく、2割から3割程度の製造品について、蓋部分と受け側の容器がピタッと合わないといった不具合が出てしまいます。これについては窯の微妙な温度の違いや季節などの外的要因もあり、改善策を模索している最中です。

 ただ、omouでは僕たちが本業で追求するほどの密封性は求められないだろう、とも考えています。実は初期のbest potはあまりに精密に削りすぎたために、調理後に蓋と鍋が外れなくなったという声がありました。今はむしろ精密に削りすぎないような工夫をしています。

 また、気密性を求めすぎるとコストにも響いてくるため、大同大学情報学部 情報デザイン学科 教授の岡田心さんなど、当社のデザイナーなどと話し合いながら、Oリングや布の使用も考慮に入れて、匂いが漏れない程度の密封性を確保する方法を考えています。

――学生さんとの共同開発ということですが、その過程で問題は生じませんでしたか。

山添氏 モノづくりにおいては納期厳守が鉄則ですが、その点でやや気をもむことはありました。デザインコンテストの趣旨が「学生さんの思いを具現化する」ということで、学生さんが経験や学びを得られるよう配慮しながら、伴走型で開発を進めていました。その結果、開発に1年ほどを要し、当初想定していた発売時期から半年ほど遅れてしまいました。

 学生さんの卒業までにアイデアを形にしないといけないということで、ギリギリではありましたがMakuakeさんで販売できるところまでたどり着けて、胸をなで下ろしているところです。

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