日本のモノづくりの現状を示す「2025年版ものづくり白書」が2025年5月30日に公開された。本連載では「2025年版ものづくり白書」の内容からDXや競争力などについてのポイントについて抜粋して紹介している。第2回では、競争力強化に向けたDXの在り方と政府の支援について取り上げる。
経済産業省、厚生労働省、文部科学省は2025年5月30日に「2025年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」を公開した。
本連載の第1回「日本の製造業のDXは、大企業ではボトムアップ、中小企業ではトップダウンで進む」では、労働政策研究・研修機構(JILPT)の「ものづくり産業におけるDXと人材育成に関する調査」から製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状について解説したが、本稿ではものづくり白書の第4章第2節の内容から、製造業の競争力強化に向けたDXへ取り組みと、それに対する政府の支援について紹介する。
製造業のDXへの取り組みが進む中、着実な成果を生み出せている領域とそうではない領域が明確に見え始めている。
情報処理推進機構「DX動向2024」(2024年6月)のDXの取組項目における取組割合と成果割合の関係に関する調査によると「アナログ/物理データのデジタル化」「組織横断/全体の業務、製造プロセスのデジタル化」および「業務の効率化による生産性の向上」には90%以上の企業が取り組んでおり、40%以上が成果を出している。
一方で、「製品/サービスの創出や高付加価値化」「ビジネスモデル、企業文化および組織マインドの変革」には80%前後の企業が取り組んでいるものの、成果が出ている割合は20%前後にとどまり、成果になかなか結び付いていないことが分かる。
製造業がDXにおいて競争力を高めていくためには、さらなる生産性向上への取り組みを進めていく一方で、既存の製品やサービスをデジタル技術を活用することで高め、新たなビジネスモデルを形にしていくことも重要だ。稼ぐ力を生み出していくためには、個社単位ではなく複数企業による連携や、その仕組みづくりが重要なポイントとなる。これらを実現するために官民のDX推進や政府の環境整備が積極的に進められている。
例えば、素形材産業と自動車産業の事業者が連携する「自動車金型づくり効率化推進会議」では、DXによる2D図面の3D化や、自動車メーカーごとに異なるプレス金型の製造に関係する加工指示ルールの標準化などを推進している。自動車メーカー、金型メーカーがデータ連携することで各企業の業務効率化だけでなく、サプライチェーン全体での金型製造のスピードアップや設計/加工技術の精密性向上を進め、産業横断での競争力強化につなげる考えだ。
また、稼ぐ力を付けるためには労働人口減少への対応も大きなポイントになるが、その解決策として有望視されているのが、ロボットやAI(人工知能)の活用だ。ただ、既存のロボットはハードとソフトが一体化しており開発の柔軟性が低いという課題がある。また、AIの活用には、サービス提供者と利用者の間で提供データの利用範囲や責任の所在などに関する契約を明確化し、利益やリスクを適切に分配する必要がある。
そこで、経済産業省では民間事業者と連携し、AIロボティクス分野の開発支援策や、AIの利用と開発に関する契約チェックリストを公表し、民間事業者におけるロボットやAIの普及を後押ししている。加えて、半導体・AI産業の成長需要を取り込むとともに、各産業の国際競争力の強化につなげていくための措置を講じるため「情報処理の促進に関する法律及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律案」を第217回通常国会に提出している。
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