B2C製品作りで“攻めの工場”へ、独自構造の「ぬか漬け容器」に映る町工場の狙い新製品開発に挑むモノづくり企業たち(2)(2/3 ページ)

» 2024年03月14日 10時00分 公開
[長島清香MONOist]

B2C製品の売り上げは期待していない?

――自社ブランドのMOLATURAを立ち上げた経緯をお聞かせください。

山添氏 もともと中村製作所は機械部品の加工会社でした。僕が24歳の時に父が亡くなり、それから会社を継いで必死にやりくりをしてきました。しかし2008年のリーマンショックで売り上げが90%ダウンしてしまったときに、「待ちの工場」から「攻める工場」にしなければならないと思い立ちました。その際に強く意識するようになったのが、自社ブランドの重要性です。

 きっかけは当時、たまたま足を運んだ経済アナリストの森永卓郎さんの講演で、「私たちはイタリア人にならなければならない」という言葉を耳にしたことです。趣旨としては、日本人は安く品質の良いモノを大量に作るが、これからはブランド作りが得意なイタリア人をみならい、大量生産ではなく少量の製品に付加価値をつける方向性を目指すべきだ、ということでした。

 この発想にすごく感銘を受けました。そこで「空気以外はなんでも削る」という父親が残した社是を基に、イタリア語で「削り出し」を意味する「MOLATURA」を冠したブランドを立ち上げることにしました。

――それまでの事業は企業から依頼を受けて加工を行うB2B案件を中心に回していたと思いますが、なぜB2C製品に挑戦することにしたのでしょうか。

山添氏 B2C製品を作る理由は明確で、B2Bの案件や人とのつながりを生む「フック」だと位置付けています。B2C製品が直接的に売り上げの柱として成長していくことを期待しているわけではありません。

 MOLATURAも中村製作所のプロモーション事業を担っているという位置付けです。SAMURA-IN、best potなどの商品にPRの役割を担ってもらい、中村製作所という名前を知っていただく。それが採用の面なども含め、本業にポジティブな影響をもたらす存在になってくれたらと思っています。

 例えば、SAMURA-IN自体はそこまで売れなかったのですが、展示会で実物を見たお客さまから「チタンの製品ができるんだったらこの部品ができないか」と相談を頂いたのが、潜水艦の部品です。そして潜水艦の部品を手掛けるようになったら、今度は飛行機の部品やH3ロケットの部品の受注にもつながっていきました。今回のomouもセラミック加工の相談や、再生土で作った製品。学生さんと知り合うという人との縁を生みましたね。

SAMURA-IN完成時の写真 SAMURA-IN完成時の写真 出所:MOLATURA

――お話を聞く限り、MOLATURAによるPRは成功していると感じます。

山添氏 僕が思う町工場の課題は、プロモーション力の不足です。外側から見ると、何をしている企業か分かりづらい。ほとんどの工場が、自分たちの仕事をうまく発信できていません。Webサイトすらない会社も多い。開設している企業があってもただ情報が羅列してあるだけで、見る人に届いていないこともしばしばです。

 その点を「町工場」にかけて「待ち工場」と僕はやゆするのですが、だからこそ僕らは自分達の強みを発信していく「攻める工場」であることを強く意識しています。Makuakeさんのプラットフォームを活用している理由の1つでもあります。

デザイナーの参加で「創れる」工場へ

――先ほど少し話が出ましたが、モノづくりにデザイナーの意見を取り入れていらっしゃるんですね。

山添氏 リーマンショックの後に感じたのが、このままだと私たちは「創る」ことができないな、ということでした。今までの業務は顧客から図面を渡されて「作る」というものでしたから。

 しかし、そのころにデザイナーの岡田さんに相談して、自分たちにない感性でモノづくりをするという体験をしました。その後、Makuakeなどとも協力しつつモノづくりやプロモーションをするようになりましたが、その過程で「自社のリソースに頼らずモノづくりができる」ことの利点を意識するようになりました。「待ち工場」から「攻めの工場」に転じる上で、大切な考えだったと思います。

 もちろん、岡田さんのアイデアを入れたことで、それまでの設計や製造プロセスにもたくさんの変更が生じました。岡田さんに出会ったときに、「すぐに結果が出るとは思わないでください」と言われたことを覚えています。お互いの得意な部分のすり合わせをするのに、どうしても時間がかかりますからね。

 ただ、岡田さん以外のデザイナーの方だと、こちらが思っていないデザインが出来上がるということもままありました。岡田さんは私たちの欲しがっているアイデアをちょうど出してくれますから、その点でありがたく思っています。

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