パナソニックホールディングスとPHP研究所は松下幸之助氏を再現したAIを開発した。現在も改良を重ねている。
パナソニック ホールディングスとPHP研究所は2024年11月27日、松下幸之助氏を再現したAI(人工知能)を開発したと発表した。任意の質問に対し、松下幸之助氏らしい内容と口調で答えを返す。松下幸之助氏を再現したAIは、経営理念を現代的に理解しやすく解説するなど社内教育向けに使用するが、今回獲得した知見やノウハウはパナソニックグループ内で共有し、パーソナライズドLLM(大規模言語モデル)など今後の製品やサービスに応用する研究開発につなげていく。
松下幸之助氏は、松下電器産業の創業者で、PHP研究所の創設者でもある。東京大学 大学院 教授の松尾豊氏が技術顧問を務める松尾研究所との共同開発だ。2024年4月に開発をスタートし、現在も改良を重ねている。
パナソニックグループの経営方針は松下幸之助氏の経営理念が基になっているが、松下幸之助氏から直接指導を受けた人は年々少なくなっている(松下幸之助氏は1894年11月27日生まれ、1989年4月27日死去)。パナソニックグループで創業者の理念を研究、啓発し、次世代に継承していくことを目指す一環で、生成AIを活用した松下幸之助氏の再現に取り組んだ。
生成AIのベースになったのは、松下幸之助氏の著作、講演や対談での発言記録、音声データなどPHP研究所が保有する資料だ。音声データはテキストにしてデジタル化した。パナソニック 歴史文化コミュニケーション室で保存している資料はおよそ5万点、映像音声は9000点に上る。
その中から、「松下幸之助発言集」などから3400万字のテキストデータを使用した。音声データは年代を絞って48時間分を採用。テープレコーダーの開発(※)に当たって松下幸之助氏が自分の音声を録音していることなども音声資料の多さにつながっており、「日常の音声も基に再現できることが強みになっている」(PHP研究所)という。
(※)松下電器産業は1963年にテープレコーダー「マイソニック」を発売した。当時の一般的な価格の半額となる1万円で製品化。自宅学習や流行曲の録音などに使う若者にヒットしたという。
「これだけ個人にまつわる著作や映像、音声を残した人は日本に他にいないのではないか。デジタルヒューマンとしては究極のチャレンジができるのが松下幸之助氏の存在だと考えている。AIがどこまで本人に迫れるか、知見を深められるかが挑戦だ」(パナソニック ホールディングス)
パナソニックグループが掲げる「責任あるAI」の考え方の下で、人とユーザーを尊重し、人を中心にした開発プロセスを実践。人の思考と話し方を再現し、人間をリアルにシミュレーションする「デジタルヒューマン」の生成に取り組んだ。
松下幸之助氏から直接指導を受けた人や、松下幸之助氏をテーマとする研究者の専門知識も取り込みながら、さまざまな状況や事例に対して経営面でのより深い示唆を提供することを目指していく。松下幸之助氏の研究においては、キーワードから1つ1つの該当箇所に当たるのではなく、幅広い文脈に体系的にアプローチできるようになり、研究の質が向上されると見込んでいる。
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