ブラザーが320万円の家庭用ミシン、子どものお絵描きが刺しゅうにイノベーションのレシピ(1/2 ページ)

ブラザー工業とブラザー販売は家庭用刺しゅうミシンの最上位モデルとなる新商品「AVENEER EV1」を2025年6月に日本で発売する。

» 2025年04月18日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 ブラザー工業とブラザー販売は2025年4月17日、家庭用刺しゅうミシンの最上位モデルとなる新商品「AVENEER(アヴェニール) EV1」を同年6月に日本で発売すると発表した。消費税込み希望小売価格は320万円で、年間販売目標は50台だ。

ブラザー販売 代表取締役社長の安井宏一氏と新商品のアヴェニールEV1[クリックで拡大]

 カーテンやベッドカバーなど大型作品の裁縫や刺しゅうでも取り回しやすい作業スペースを設けた。本体には実用縫いや飾り縫い、刺しゅうはさまざまなデザインデータが内蔵されており、手軽に創作を始められる。ディズニーのキャラクターの刺しゅうデータも200種類以上含まれている。ブラザー工業が運営する刺しゅうデータ販売サイトからもデザインを入手できる。

 既製の刺しゅうデータだけでなく、写真やイラストを刺しゅうデータに変換する機能も備えている。子どもが書いた絵を刺しゅうにして残したり、“推し活”のグッズを作ったりするためのオリジナルの刺しゅうにも対応できる点が特徴だ。

アヴェニールEV1でできる刺しゅうの例[クリックで拡大] 出所:ブラザー工業

 欧米には高級ミシン市場がある。そこに向けてブラザー工業も消費税込み希望小売価格が228.8万円の「Luminaire(ルミナイアー) XP1」を投入してきた(日本でも2021年1月に発売)。今回発表したアヴェニールEV1はその市場に向けた新モデルだ。

 日本はまだ高級ミシンの市場が欧米ほどは育っていないが、欧米と同様に市場性はあると見込み、新商品を通じて市場活性化に取り組む。

自由に刺しゅうできることの魅力

 家庭用ミシンの国内市場は、2015〜2024年の10年間で市場規模全体が55%減少した。コロナ禍はマスクの手作りなどで一時的に売り上げが1.7倍に伸長したが、その後は減少傾向が続いている。

 販売減少が著しいのは価格が3万円以下の手ごろな商品だ。服や小物の既製品が安価になったことで手作り需要が縮小した。ミシンが生活必需品から趣味のアイテムに移行していることもあって、手ごろな価格帯に比べて高価格帯のミシンは市場縮小が緩やかだ。

 「好きな物を自由に刺しゅうしたい」というニーズは根強い。ブラザーの高級ミシンのあるユーザーは、着物の帯にディズニーキャラクターを刺しゅうしてオリジナルの帯を自作。それを身に付けてディズニーランドに行くなど、自分らしい持ち物に好きな刺しゅうを施して楽しんでいる。ひいきの野球チームの応援歌を刺しゅうするというユーザーもいるようだ。

 海外では、自由に刺しゅうする面白さが学校の授業にも取り入れられているという。ITの授業で制作した作品を、紙にプリントするのではなくデータを取り込めるミシンで刺しゅうするというオーストラリアの取り組みで、家庭科の授業に興味を持ってもらうきっかけづくりが成功した。自分の作品が紙ではなくバッグやシャツとして残ることが子どもたちの関心につながっている。

 子どもの絵を刺しゅうで再現するのは、孫から祖父母へのプレゼントなど家族間でも人気だという。

 先行して投入したルミナイアーXP1は、富裕層やマニア的なファンだけでなく、一般的な収入で手芸が趣味の会社員も購入している。個人で楽しむだけでなく、作品の販売などC2C(コンシューマーtoコンシューマー)のビジネスを始めるユーザーもいる。

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