「RAGでは超えられない製造現場の暗黙知がある」――ギリアは3Dモデルや解析結果をマルチモーダルLLMで統合し、設計の暗黙知を形式知化する新プラットフォームの提供を開始した。不採用理由や失敗の文脈も、組織の資産に変える。
製造業を取り巻く環境が大きく変化する中で、製品開発に関わる“企業固有のナレッジの消失”が問題となっている。熟練技術者の退職などにより、ノウハウや知見が言語化されないまま失われていく「属人化」の問題が顕在化しているからだ。
こうした課題に対し、AI(人工知能)ベンチャーのギリアは2026年5月20日、設計開発プロセスにおける暗黙知を形式知へと変換するプラットフォーム「GHELIA AutoDeck(ギリア オートデッキ)」の提供を開始した。同システムは、テキスト情報だけでなく、3Dモデルやシミュレーション結果、画像といった非構造データを、マルチモーダルLLM(大規模言語モデル)を用いて統合的に解釈し、企業固有のナレッジとして蓄積、管理するものである。GHELIA AutoDeckをなぜ開発し、設計現場をどう変えていくのか。プロジェクトに携わった主要メンバーにその狙いを聞いた。
(左から)ギリア AI技術部 AIエンジニアの山本昂平氏、同 AI事業推進部 PM2グループ グループリーダーの宮澤靖氏、同 ソリューションビジネス部 アカウントエグゼクティブの前田哲也氏(飯干茂義氏はオンラインで取材に参加)[クリックで拡大] 近年、社内文書の活用を目的として、RAG(検索拡張生成)を用いたテキストベースのAIシステムを導入する動きが広がっている。しかし、製造業の設計現場で蓄積される知見は、テキストデータだけにはとどまらない。3Dモデルの複雑な形状データや、CAEツールによるシミュレーション画像、図表を多用したPowerPointの報告資料などが、独自の非構造データとして社内に散在している。
特にシミュレーションデータはファイルサイズが大きく、専用ソフトで展開するだけでも手間がかかるため、目的の過去データを探し出す作業だけで時間を浪費してしまう。
ギリア AI技術部 AIエンジニアの山本昂平氏は、自身の設計現場での経験として、「1つのファイルを開くだけで数十秒かかるような重いデータがファイル名のみで管理されており、目的の解析結果を探し出す作業だけでかなりの時間を浪費していた」と現場の実態を語った。
また、品質が直結する製造業においては、AIの出力が現実の物理法則や設計要件と乖離することは許されない。
ギリア ソリューションビジネス部 アカウントエグゼクティブの前田哲也氏は、「当社はAI開発の受託を行ってきたが、AIに単なるデータ処理を任せるだけでは限界がある。システムが提示する内容が現実の要件と正しく結びついているかを担保する仕組みが必要と考えた」と説明する。流行のAI技術をそのまま持ち込むのではなく、製造業特有のデータの性質と品質の厳密性を両立させる基盤として、開発に取り組んだ。
GHELIA AutoDeck(以下、GAD)とは、設計現場に散在する非構造データを統合し、検索/活用可能なナレッジとして体系化するプラットフォームだ。
GADでは、設計開発プロセスで生じるデータを1つの「ナレッジレコード」として記録する。記録される要素は、CAEツールなどで算出されたシミュレーション結果(画像、解析条件、設定情報など)や、CADで作成された3Dモデルの形状データ、マルチモーダルLLMがそれらを解釈して自動生成した説明文、ユーザーが要件に合わせて付与したメタタグだ。
蓄積したナレッジレコードは、「熱変形が大きかった解析結果は?」といった自然言語によるテキスト検索のほか、特定のCADデータをアップロードして類似形状の過去解析を探し出す形状ベースの検索にも対応している。ギリア AI事業推進部 PM2グループ グループリーダーの宮澤靖氏は、「ユーザーは断片的な記憶や曖昧な条件からでも、全てのファイルを端から探すのではなく、直感的な操作で過去の類似設計や解析の意図にアクセスできるようになる」と説明する。
プラットフォームの最大の特徴は、データを引き出すアウトプット時だけでなく、蓄積するインプットの段階でマルチモーダルLLMを活用している点だ。ナレッジの登録には、ユーザーが必要なデータをアップロードし、製品の型番号などの補足コメントを任意で追加すると、マルチモーダルLLMが情報を整理する。そして、「目的」「観察事実」「議論/考察」「結論」「次のアクション」といった項目を自然言語で自動生成し、データ化が完了する仕組みだ。生成したテキストを直接書き換える機能は持たせていないが、担当者が再生成を指示したり、追加コメントを付与したりすることで内容の精度を担保する。
この仕組みの意図について宮澤氏は、「技術者の文章作成能力には個人差がある。インプットの段階でマルチモーダルLLMを機能させることで、属人化してブラックボックスになっていた情報を、誰が見ても分かる形式知へと変換できる。GADは単なる検索プラットフォームではなく、ナレッジの『蓄積』の方に重きを置いたシステムだ」と語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク