本連載では、筆者が参加したIoTを活用した大田区の中小製造業支援プロジェクトの成果を基に、小規模な製造業が今後取り組むべきデジタル化の方向性や事例を解説していきます。第3〜5回は実際の中小製造業におけるデジタル化の取り組み事例を紹介しましたが、今回はそこから見えたポイントについてまとめます。
大田区における中小製造業支援プロジェクトでの取り組みを基に、小規模製造業の今後進む道について解説している本連載ですが、第3回、第4回、第5回と中小製造業のデジタル化のリアルな姿を事例として紹介してきました。第6回となる今回は、これまで紹介してきた3社の取り組みから成功のポイントを抽出して解説します。
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これまでの連載では、小規模/中規模製造業の現場のデジタル化の難しさを示しつつ、成功した企業の事例を紹介してきました。ここから見えてきた中小製造業のデジタル化推進におけるポイントとしてまずいえることは、「目的意識の明確化」と「経営者の意識が変革のカギを握る」という2つの点です。
特に、デジタル化がスムーズに進んでいる企業には、以下の3つの共通点があります。
一方で、現状維持にとどまる企業では、経営者自身が多くの業務を担っているため、現場対応に追われてデジタル化を考える時間が持てず、取り組みも消極的になりがちです。業務や加工作業を手放すという発想自体がなく、結果として業務見直しの機会が少ないという傾向も見られました。
そこでこうした傾向について、過去3回にわたって紹介してきた成功事例企業の取り組みから振り返ってみましょう。
まずは、3社の取り組みについてその特徴を簡単に振り返ってみます。
フルハートジャパンは、社員数約70人の企業です。製造、営業、総務と部門が分かれ、装置の設計から組み立てまでを行っています。生産管理からバックオフィスまで一貫して統合した基幹システムを導入し、社員の自発的な業務改善を実現しました。
初期のシステム導入失敗を機に「業務をシステムに合わせる」方針へ転換したことが成功の要因です。さらに、ローコードツールを用いた現場主導の改善活動も活発で、社員一人一人が「使う人」として積極的に関わっています。
堤工業は社員数10人以下のプラスチック切削加工企業です。現場と事務を社長自身が兼務する中、デジタル化に取り組んできました。生産管理システムを導入し受注から出荷までを一元管理していますが、現場作業員のIT活用には心理的な抵抗もあり実際の運用には工夫が求められました。
特徴的なのは、システムを一括導入するのではなく、見積業務、労務、会計など、それぞれに適した別々のツールを使い分ける分散型の戦略を採用している点です。各ツールはクラウド型で、試しながら導入できる柔軟性があり、IT補助金の活用によって導入コストも抑えられています。
この戦略の背景には、企業の成長段階に応じて必要なツールが変わっていくことを見越し、データ移行や運用のしやすさを確保しておきたいという考えがあります。また、在宅ワーカーや外注秘書の活用により、間接業務の負担を軽減する取り組みも進めています。小さいからこそ、機動力のあるデジタル化を選べる――。その実践が、堤工業の大きな強みとなっています。
エースは、社員数10人未満ながら300社以上の協力工場と連携し、多品種少量の金属加工案件を多く手掛ける企業です。増え続ける案件と情報管理の煩雑さを背景に、社内サーバと情報共有基盤の整備を皮切りに、段階的なデジタル化を推進しました。
生産管理システム「TECHS-BK」の導入にあたっては、導入目的を「納期順守率の向上」や「情報の見える化」と明確にし、約10カ月の準備期間を設けてスムーズな移行を実現しました。図面管理のクラウド化で、検索性と対応スピードが大幅に向上しています。Webマーケティングにも力を入れ、SEO対策により新規受注が増加。ツールの導入だけでなく、業務ルールの定着を重視した現場に根付くDX(デジタルトランスフォーメーション)が特徴です。
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