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中小製造業のデジタル化のリアル――電子機器を製造するフルハートジャパンの場合これからの中小製造業DXの話をしよう(3)(1/2 ページ)

本連載では、筆者が参加したIoTを活用した大田区の中小製造業支援プロジェクトの成果を基に、小規模な製造業が今後取り組むべきデジタル化の方向性や事例を解説していきます。第3~5回は実際の中小製造業におけるデジタル化の取り組みを事例を紹介します。第3回は、電子機器を製造するフルハートジャパンの事例です。

» 2025年04月15日 09時00分 公開

 大田区における中小製造支援プロジェクトでの取り組みを基に、小規模製造業の今後進む道について解説している本連載ですが、第1回第2回では、中小製造業にとってデジタル化で成果を出す難しさや成功する企業の条件などについて解説してきました。

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 第3~5回については、中小製造業のデジタル化のリアルな姿を事例とともに紹介します。今回は、大田区で電子機器の設計や製造を行っているフルハートジャパンのデジタル化の事例を、2024年12月まで代表取締役社長を務めていた國廣愛彦氏へのヒアリングを基に紹介します。

(1)基幹システム導入のカギは1回目の失敗経験

photo 元フルハートジャパン 代表取締役社長のた國廣愛彦氏

 「株式会社フルハートジャパン(以下、フルハート)」は、東京都大田区中央に本社を構える1968年設立の企業です。資本金1000万円、従業員数68人で、電子機器/制御システムの設計製造や計測、自動制御システムのソフトウェア開発、プリント基板実装、メカトロ装置組立、計装配管などを手掛けています。2024年5月には、事業成長を目的とし東亜電機工業のM&Aを受け、現在は両社で一体となった経営を行っています。

 フルハートでは、バックオフィスのデジタル化を積極的に進めており、「生産管理」「購買」「出荷」「在庫管理」「人事/労務」「経理」「マーケティング」に至るまで、幅広い領域でデジタル化を実現してきました。しかし、その道のりは簡単なものではなく、現在の姿になるまでに試行錯誤があったとしています。

1回目(2007年)の基幹系システム構築での失敗

 フルハートが最初に大きくデジタル化に舵を切ったのは、2007年に基幹系システムの構築に取り組んだことからです。当初、フルハートでは約10社のITベンダーからシステムを選定し、フルカスタマイズでも低コストで導入できる企業を選択して導入を進めました。

 目指したのは、受注、購買、製造(生産管理+ガントチャート)、出荷の一元管理でした。しかし、既存の業務に合わせた過度なカスタマイズがあだとなり、以下の3つの問題が発生しました。

  1. 原価集計が正しくできない
  2. 在庫数が合わない
  3. データの整合性が取れず、原因を特定できない

 結果として、期待した効果を得られず、システムは十分に機能しませんでした。

2回目(2020年)の基幹システム構築での成功

 1回目の失敗を踏まえて、過度に既存業務にシステムを合わせるという方針を転換しました。システムに業務ルールを合わせてカスタマイズを最小限に抑え、テクノアの「TECHS-S」を導入しました。また、IT補助金を活用することで、キャッシュアウトを抑えることができたとしています。

 これにより、受注から購買、製造、出荷、在庫までのシステム統合に成功し、書類作成、検索、修正の手間を大幅に削減しました。製造業では類似発注時に過去の図面を基に積算し直す作業が多く発生します。ここに多くの時間と手間がかかっていましたが、デジタル化により過去の部品価格や見積もりを瞬時に確認できるようになり、作業効率が大幅に向上しました。

 一般的に、デジタル化の効果は少品種多量生産で顕著に表れるといわれますが、中小企業においては50個程度のロットでも十分な効果が得られます。そのため、BOM(部品表)の登録を積極的に進めています。

(2)バックオフィスのデジタル化

 基幹システムのデジタル化に成功したことから、その経験を生かし、バックオフィスのデジタル化も積極的に推進しました。

 ブルーテックの統合ビジネスアプリケーション「GRIDY」を導入し、カレンダー管理、ToDo管理、設備/会議室予約、車両管理などをデジタル化し、バックオフィスの業務効率を大幅に向上させました。さらに、GRIDYのオプション機能としてSFA(営業支援システム)を追加し、日報入力や案件管理を議事録と連携させることで、営業活動の情報整理を強化しました。

 こうしたデジタル化推進に賛同するメンバーが増えてきたことで、さらに細かい業務のデジタル化を目指すことにしました。総務課ではGoogleのローコード開発ツール「Google AppSheet」を活用し、アナログ業務のデジタル化を自主的に進める活動が定着しました。現在では、社員が自ら業務の課題を見つけ、デジタル技術で効率化を実現できるようになっています。

 また、人事・労務部門では、ヒューマンテクノロジーズの「KING of TIME」と、クロノスの「X'sion(クロッシオン)」を導入し、出退勤管理、出張申請、有給申請のワークフローを全てデジタル化することができました。さらに、給与管理や経理管理もシステム化が完了し、バックオフィス全体が一気通貫でデジタル化したことで、の業務効率が大幅に向上しました。

 注目すべき点は、社員がローコードツールを活用し、主体的に業務改善を進めていることです。大企業では、システムはIT部門が管理し、現場が自由に手を加えることが難しいケースが多く見られます。しかし、中小企業ではこの柔軟性を生かし、社員自らがデジタル化を推進することで、業務の生産性を大幅に向上させる可能性があることを示す好例といえます。

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