本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。第8回となる今回は、生成AIとの融合で大きな進化を見せているロボットの世界について解説する。
本連載では、「デジタルツインとの融合で実装が進む産業メタバース」をタイトルに連載として、拙著『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインがビジネスを変える〜』(日経BP)と『「生成DX〜生成AIが生んだ新たなビジネスモデル〜」』(SBクリエイティブ)の内容に触れながら、本連載向けに新たに追加する内容を含めて、産業分野におけるデジタルツインとの融合により実装が進む産業分野におけるメタバースの構造変化について解説する。
現在、生成AI(人工知能)があらゆる産業の構造転換を生んできているが、ロボットやそれを取り巻くロボットSIerにおいても大きな変化が生まれている。一般的なプログラムと同様に制御用コードもAIによって生成できることから、ロボットプログラミングの容易性が大幅に高まった。それにより、柔軟な動作の切り替え、SI、学習などを効率化でき、ロボットや機器、製造ラインがフレキシブルに動作を変化させられるようになる。生成AIをインタフェースとすることで、本来の意味で、デジタルツインと現実世界で密接な関係を築けるようになるのだ。
今回は生成AIによるロボットを取り巻く環境変化の一部を取り上げて紹介する。それらの足元の変化としてのヒューマノイドロボットについては次回(第9回)で紹介する予定だ。
現在、製造業や物流などさまざまな現場でロボットの活用が進んでいる。ロボットは導入企業が単純にロボットを調達してくれば、そのままオペレーション(業務)で活用できるわけではない。製造ラインや物流作業のオペレーションなどに合わせてインテグレーション(据え付けやプログラム、調整)をする必要がある。
事前にロボットに実施させたい動作を定義し、その通りに動くようにロボットをティーチングする。ティーチングは、ユーザー企業側で生産技術部などでロボットに関するノウハウや知見がある場合は、それらの部門が実施する。ただ、多くのケースでは、ロボットシステムインテグレーター(ロボットSIer)と呼ばれる企業が支援している。
そもそもロボットは、繰り返し業務との相性がよく、製造業では、加工や、塗装、溶接、搬送などの工程でロボットは多く導入されてきた。一方で、状況判断や、人のニーズに合わせて柔軟に動作を切り替えなければならない動作は苦手とされている。複雑な事象が関連する中、事前に全ての動作をロボットに学習させて、ティーチングさせることが困難であるからだ。そのため、土地や環境の条件で一品一様の作業になりがちな建設業や、サービス業、農業などでは、ロボット導入は一部にとどまっていた。
これらロボットのフレキシビリティの限界や、システムインテグレーション(SI)の個別対応の負荷が、デジタルとフィジカルを緊密につなぐCPS(サイバーフィジカルシステム)を実現する上での課題にもなっている。デジタル空間でのシミュレーション結果や検討結果に合わせて柔軟にフィジカル空間で動作を変化させることが、CPSで描かれた理想像だが、現在のロボット環境ではそれが難しいからだ。
しかし、その状況が生成AIとロボットとの融合によって変わりつつある。ITシステムにおけるプログラミングコードの自動生成で生成AIの活用が広がっているが、同様にロボットや制御機器のコードを自動生成する仕組み作りが進んでいるためだ。これにより、ロボットを柔軟に環境に合わせて変化させながら、人手をかけることなく(最小で)制御やインテグレーションを行えるようになる。
これを応用して、ロボットに生成AIを組み込み、事前に大体の動作をティーチングしておき、自然言語での指示や状況判断をもとに柔軟に動作を切り替えるという運用が可能となってきている。事前のインテグレーションの負荷が最小化されるため、導入企業にロボットのノウハウがなくても高度な作業を行わせることができる。また、柔軟に動作切り替えが求められる、今までロボットが導入するのが難しかった工程や作業にも、ロボットを適用できるようになる。
これらの変化により、ロボットや機器がデジタル上でのシミュレーションや検討を現実世界に円滑に反映できるようになる。そして、現実世界での変化をロボットの動作データやセンシングデータから把握し、デジタル世界で再現するループが完成し、ロボットが本来の意味でデジタルツインと現実世界の結び目となる。
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