広がる生成AIとロボットの融合、実例で真価を紹介デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(8)(3/5 ページ)

» 2025年10月30日 08時30分 公開

ロボットモーションのモデル化で正確な動作を実現する産総研の事例

 ロボットモーションのモデル化で正確な動作を実現するため生成AIを活用するのが、産業技術総合研究所(産総研)による事例だ。

 産業分野で正確な動作が求められる領域でのロボット動作生成への取り組みも進む。産総研 インダストリアルCPS研究センター長の谷川民生氏は、今後のロボットの姿を見据えロボットのモーションを生成する言語モデル(大規模モーションモデル)の開発を行っている。

 現在、生成AIにより、ロボットの制御コードを生成できるようになっているが、よりコード生成に特化させて学習し、精緻なコード生成を図るのが産総研による大規模モーションモデルへの取り組みだ。人や生産計画、センシング結果をもとに既存の生成AI(言語モデル)が実施しなければならないタスクを判断し、その上で、言語モデルから連携される実行タスクに応じて、大規模モーションモデルが各ロボットの制御コードを生成する。

 例えば、工場や物流センターなどでモノをつかむ「把持動作」は、モノの形状が異なるため事前学習がしきれずロボットの導入が難しい工程の一つだ。そこで製品特性や3D形状と、動作モデルをひも付けた形でロボットモーションモデルを学習させる。これにより、つかむ対象に応じて適切なロボットモーションを生成して正確に動作させる。

 この技術により「産業構造が大きく転換する」と谷川氏は予測する。今まではロボットの動作をユーザーのオペレーションに合わせて、専門のロボットシステムインテグレーターが導入を行っていたが、このモデルが整備されることによりユーザー側でオペレーションの変化に合わせて柔軟に設定することができる。また、ロボットメーカーごとに制御コードを生成できるため、モーションモデルが構築されると、どのロボットであってもタスクが実行できるようになる。

 ロボットメーカーにとっては、このロボットモーションモデルを展開することで、「ロボット自体」のハードウェアの提供から、「ロボットをどう使うか」という業務やオペレーション、知見などを含めたサービス型ビジネスモデルへとシフトすることができる。谷川氏は「現在取り組む製造や物流分野での「把持」工程から、今までロボットの導入が進んでいない1次産業や、サービス業、さらには環境対応の中でリサイクルされてきた個別の製品の分解、再製造などの回収後対応に適用範囲を広げていく」と考えを示している。

photo 図7:大規模ロボットモーションモデルの位置付け[クリックで拡大] 出所:d-strategy

実験のAIロボット化で研究の在り方変える理化学研究所の挑戦

 実験や研究におけるロボット活用においてフレキシブルな動作生成を活用しているのが理化学研究所(理研)での事例だ。

 研究開発における実験は個別性が高く、それを行う動作についても標準化が難しく、事前に完璧なティーチングは行えない。自動化が難しかったため、研究者が多くの時間を費やして実験に伴う単純作業でも自ら行っているのが現状だ。こうした実験の工数が制約となり多くの仮説を試行錯誤する制約となっていた。

 理研では、こうした規格化されていない実験環境を認識してロボットアームの動作を自動的に生成し、自律実験を遂行するAIシステムを開発している。具体的には、植物実験において自律稼働するロボットを適用している。

 植物は個体ごとに形状が異なり、実験の中でのサンプルのダイナミックな変化に合わせて環境を認識し、次の動作を検討する柔軟な対応が必要だ。カメラで捉えた実際の環境を3次元で認識し、それを高精度に再現したデジタルツインでシミュレーションする。その結果に基づき、ロボット動作をTransformerモデルで生成し、自律制御を行う。生成AIを活用することで、「最も大きな葉に液体を添加」「葉の中央に添加」など抽象的な指示で実験ロボットを制御することができる。

 理研では、植物など生物に関する実験とともに、再生医療用細胞の実験においてもロボット活用を進めている。研究チームとしては「動作生成実験ロボットの仕組みは研究者の研究活動の在り方を変える」としている。研究者が時間のかかる実験の実施自体を自動化することで、本質である研究仮説の考案や試行錯誤、実験結果の分析に集中できるようになり、社会実装に向けた具体的な方策などの検討により時間を投入することができる。

photo 図8:植物実験におけるロボット活用におけるフレキシブル動作生成[クリックで拡大] 出所:理化学研究所

生活や家事でロボットが活躍する時代へ、Preferred Roboticsのカチャカ

 さらに、生成AIによるロボットの適用範囲の拡大は生活や家事の領域にまで広がる。今まで掃除や洗濯、料理などの家事や生活領域は、動作がその都度、異なることから、事前のインテグレーションが難しく、ロボット掃除機などは普及しているものの、汎用的な作業を行えるロボットの導入が難しいとされてきた。

 しかし、生成AIとの連携でフレキシブルに動作ができるようになり、家事や生活領域でロボットを活用し、複数の家事などを担わせられる可能性が広がっている。その1つが、Preferred Roboticsのカチャカだ。カチャカは家庭での活用も想定する自律走行ロボットで、人の指示にもとづいて柔軟に動作をする。連載の次回でヒューマノイドロボットについて取り上げる予定だが、今後、家事でのロボット導入がさらに進む見込みだ。

photo 図9:自律走行ロボットのカチャカ[クリックで拡大] 出所:Preferred Robotics

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