今後ロボットはデジタル世界と現実世界の重要な接点となっていく。例えば、工場などのロボットが加工対象となる製品のデータを基に、生成AIが加工に必要なアクションや、材料の準備を行うプログラムを作成し、その通りの作業を行うようになる。また、飲食店や建物管理などではロボットがセンシングした環境情報などを基に、注文された料理の配膳タイミングを捉えて運搬したり、建築物の点検内容から次の保全アクションを決めて作業をするようなことが、人手によるプログラミングを挟まずに実現できるようになる。
こうした世界が生成AIとロボットの融合の中で実現されようとしているのだ。今まではロボットは機器ごとに制御の在り方が異なっていたが、生成AIがこうした機器ごとの違いを吸収し、制御コードを書き分けられるようになってくると、ハードウェア自体よりも、それらを統合的につなぐインタフェースをいかに確保するかが鍵となる。今後デジタルと現実世界の接点や「目」や「手足」としてのロボットやドローンと、「頭」としての生成AIの連携による社会変革やオペレーションの変化が想定される。
今後、生成AIの進化がさらに進む中、生産ラインの在り方はどのように変化するのだろうか。今までの製造ラインの変化を振り返ると以下の通りとなる。
そこから、ユーザーニーズの多様化や、製品ライフサイクルの変化が高速化する中で、固定されたラインで特定の製品を作る製造から、ラインの中で調整や段取り替えなどを行い柔軟に製造を切り替えていく多品種少量生産の流れが生まれた。
これは現場の高いノウハウにもとづく段取り替えや調整で多品種少量生産や、変化に対応したフレキシブル生産を実現する仕組みだ。ただし、これは日本のような高度な現場技術者のノウハウによって支えられており、全ての企業が実現するには至らず、効率的に高度な形で実現できている企業に限られていた。
生成AIが機器やラインの制御をフレキシブルに調整できるようになることで、フレキシブル生産がより多くの企業に広がる可能性が生まれている。方向性としては、共通部分は従来同様に自動化を行った上で、段取り替えの情報などを学習させ、変動する部分を生成AIで組み替えていくことでラインのフレキシビリティを担保する。もう1つの方向性としては、固定された製造ラインのモジュールを、製品を載せた生成AI搭載のAMR(自律走行ロボット)が生産計画や人の指示、センシング結果にもとづき柔軟にルートを変えて移動しフレキシブルに製造するという形だ。個々の製造工程は自動化を進めるが、そのルートをフレキシブルに変更することで高効率なフレキシブル生産を実現する。
工場ラインの制御は、正確性が求められるため、最初から制御コードを生成するのではなく、事前に段取り替えの固定パターンを参照させておく。人の指示や、生産計画などの状況判断から、どの段取り替えパターンを選択するのかを生成AIに担わせるといったものだ。ある程度の量産品であれば、段取り替えのパターンは固定化できるため正確性重視で、固定された段取り替えパターンの選択を生成AIにフレキシビリティに実施させ、一方でリサイクル品として回収されてきた循環製品の解体など、毎回対応が異なるものについてはセンシング結果をもとに制御コードを生成させるアプローチとなる。対応タスクの求められる正確性や、どの程度変化の幅が大きいのかでアプローチを選択することになるだろう。
今後製造業としてフレキシブルなオペレーションが可能となる中で、より自社の製造能力をAI活用で効率化や柔軟性を向上させた上で、自社製品のみならず、他社の製品の製造を請け負うEMS(電子機器受託製造サービス)型の製造受託サービスが広がることが想定される。日本の製造業においては現場オペレーションが強みであるが、これらのノウハウが体系化されておらず活用しきれていなかった。こうした中で、自社の工場の余剰キャパシティーを活用してAI時代の新たな受託製造サービス展開が期待される。
加工、組み立て、搬送、検査などそれぞれラインが存在している組立産業(自動車、電機など)は今までEMSなどの水平分業が進んできており、iPhoneなどの製造を担う台湾のフォックスコンや、ソニーのPC部門がスピンオフしたVAIOが自社PC製品とともに他社ロボットや先端プロダクトのEMSを展開するなど展開が活発だ。
生成AIの普及とともに、これらがより高効率に実現できるようになる。今まで水平分業型に移行しておらず自社で垂直統合型モノづくりを行うことが中心であったプロセス産業(化学、鉄鋼、飲料など反応や攪拌などを行う製造業)においても今後は、転換が起こると考えられる。
プロセス産業はDCS(分散制御システム)を通じて統合的にプラントが制御されており、そもそも人を介するプロセスが極小化され遠隔監視/制御が進んでいる。現在、DCS企業の横河電機が、幅広いプロセス産業企業と、プラント制御/操業のノウハウをAIモデル化し自律操業する取り組みを進めているが、こうした自律操業を支えるAIモデルを構築できると、優れたノウハウを持った企業はリソースを最小化した上で他社プロセス製造を受注するビジネスモデルも取り得る。素材産業は日本が強みを持つ領域であり、組立産業の自社製造能力をAIで効率化したEMS展開とともに、プロセス産業のAI実装を通じたEMS展開、水平分業展開は期待される領域だ。
次回は、フィジカルAIやEmbedded AI、ヒューマノイドロボットの進化について解説する。
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小宮昌人(こみや まさひと)
d-strategy,inc 代表取締役CEO
東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授
デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構JIC-VGIなどを経て現職。戦略/DX支援企業のd-strategy,incを創業し代表取締役として、生成AIをはじめとするデジタル化や技術変化の中での企業のDX、ソリューションや、AI活用を通じたビジネス創出とオペレーション変革を支援するとともに「生成AI活用伴走プログラム」を展開。加えてコンサルティングファームやSIerなどのプロジェクト支援も実施する。
また、グローバルでのスタートアップエコシステム連携プラットフォームのThird Ecosystem,incの代表取締役CEOとして、企業の国内外スタートアップと連携した新規事業創出や、R&D/新規事業のスケール化の支援、海外/国内のスタートアップエコシステム(VC/CVC/企業/大学/政府機関/スタートアップ)の連携・活性化に取り組む。
近著に『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)、『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社)、2024年11月に生成AIの産業活用に関する書籍『生成DX〜生成AIが生んだ新たなビジネスモデル〜』(SBクリエイティブ)を出版。
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