「成長する企業」と「現状維持の企業」 今すぐにでも変えられるそのポイントとはこれからの中小製造業DXの話をしよう(2)(1/2 ページ)

本連載では、筆者が参加したIoTを活用した大田区の中小製造業支援プロジェクトの成果を基に、小規模な製造業が今後取り組むべきデジタル化の方向性や事例を解説していきます。第2回は「成功する企業」と「現状維持の企業」の差について言及しつつ、デジタル化の前提となる「意識改革」の必要性について説明します。

» 2025年03月18日 07時00分 公開

 大田区における中小製造支援プロジェクトでの取り組みを基に、小規模製造業の今後進む道について解説している本連載ですが、第1回では、中小製造業にとってデジタル化で成果を出す難しさについて解説しました。成果が出た取り組みや、意味があまりなかった取り組みを紹介し、その中で「企業間のデジタル化」が重要だということを説明しました。

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 今回はデジタル化を取り入れ「成長している企業」と「現状維持にとどまる企業」の違いに触れつつ、デジタル化の前提となる経営者の「意識改革」の重要性について考察します。

(1)成長する企業のポイント

 大田区における中小製造業のデジタル化実証実験では、多くの社長へのヒアリングを通じて現場の状況、社員の雰囲気、経営の実態を詳細に知る機会を得ることができました。加えて、数年間にわたる打ち合わせを通じて、地域に根付く考え方や経営者の意識にも触れられ、さらに、この10年間で各社に起きた変化を目の当たりにすることができました。これらを通じて、「成長する企業」と「現状維持にとどまる企業」との明確な違いを捉えられました。

 多くの中小製造業は、発注元となる企業からの下請け加工で生計を立てており、よくも悪くも発注元企業の経営状況に売上高が左右されます。従って、発注元企業からの注文が減少し、物価高が続く今の状況は厳しく、営業利益も減少します。その中でも成長を続けている企業が存在しています。

 成長軌道に乗る企業は積極的な経営判断を下し、現状に満足することなく、加工技術を生かした新たな事業に挑戦しているケースが多く見られます。従来のモノづくり技術を大事にしつつ、デジタル技術を有効活用し、経営者自らがデジタル化を推進しています。大田区の実証実験においても、モノづくり技術を生かした新しいビジネスモデルや、このビジネスモデルに必要な受発注デジタルプラットフォームの構築などに取り組む企業は成長を続けています。

 昨今ではこうしたDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れを生かした若い経営者たちも現れ始めています。彼らは経営に対する学習意欲が高く、さまざまな勉強会に参加し、デジタル化についても直接ベンチャー企業を巻き込んで、自社に合わせたデジタル化を推進しています。

 例えば、大田区ではベンチャー企業と連携しながらイノベーションを創出する「ベンチャーフレンドリー」という活動も推進しています。リスクを背負いながら、新しい事業を立ち上げ、既存顧客以外でも売り上げを獲得するためにさまざまな取り組みを進めています。従来の枠組みにとらわれずにチャレンジを続けることが、今後の持続的成長に必要であることが分かる事例です。

photo ベンチャーフレンドリープロジェクトの概要[クリックでWebサイトへ] 出所:安久工機 田中宙氏が作成

(2)現状維持にとどまる企業のポイント

 一方で、同じ地域内に存在するものの、現状維持にとどまったり、縮退していたりする企業も多く存在します。

 もちろん、企業規模や経営者の年齢、考え方、後継者の有無などによって、何が正解なのかは各社で異なります。しかし、今後も事業を継続していきたいと考えている企業にとって、成長できないことは残念なことです。

 そういう企業の特徴として、小規模が故に社長自身が現場に入って加工をしており、経営に時間を割くことが難しいという点が挙げられます。デジタル化も任せられる人がおらず、社長自身が時間をかけることが難しいという現実があります。

 「目の前の仕事を終わらせないと納期に間に合わない」という切実な目の前の問題に迫られ、仕事を任せられる従業員も少ないため、自分で対応せざるを得ない状況が生まれてしまい、結果として、社内の仕組み改善が進まないというジレンマに陥っています。さらに、作業場で過ごす時間が多くなることで、外部環境の情報が耳に届きにくく、他社の状況もつかめないという悪循環も生まれてしまいます。デジタル化についても最新情報を得ることが難しく「どのようなツールがあるのか」や「何をどうすればよいか」が分からないという状況に陥りがちです。

 なぜこのような状況に陥ってしまうのでしょうか。

 そこには、伝統的なモノづくりや工場の慣習が強く残されており、そこから踏み出した考え方ができないということが挙げられます。目先のことだけを考えれば、製造現場での加工数が売り上げに比例するため「事務処理にお金をかけるぐらいなら、少しでも手を動かして加工したほうがよい」という考え方に流れがちです。特に、高度経済成長期を経験してきた社長の力が強いほど、この傾向は強く残っているように感じます。その結果、目に見えた問題が既に生まれているのにもかかわらず、従来通りの仕事を変えられず、現状維持にとどまってしまう形になります。

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