なぜ日本の製造業はPLM構築につまずくのか? よくある失敗事例を見てみるものづくり太郎のPLM講座(2)(1/5 ページ)

「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第2回では、日本の製造業がPLM導入で失敗する理由について掘り下げる。

» 2025年07月02日 06時00分 公開

PLMの構築はなぜ失敗するのか?

 筆者は自動車部品、半導体製造装置、工作機械などのさまざまなモノづくり現場を訪問し、日々の業務プロセスや実務をこの目で見てきた。中にはPLM構築のお手伝いをさせていただく場合もある。

 その中で、さまざまな企業がPLM(Product Lifecycle Management)システムの構築に失敗する事例を嫌というほど見てきた。例えば、「役員からの指示で動いてみたものの、諦めていつの間にか無かったことにする」といった事例や、「担当者が異動してプロジェクトが進まなくなってしまいどうすることもできない」という事例なども少なからず見てきた。

 話を聞いた企業の中には「PLMの構築に2回挑戦したが失敗し、今回が3回目の挑戦だ」や「プロジェクトの開始から4年がたったが一向に進む気配がない。本来であればプロジェクトを主導すべきコンサルタントは議事録しか取らない」というような嘆きも聞こえてくる。

 第1回の「PLMこそ日本の製造業に必要な理由――プロセスをコントロールしろ!」では、日本のモノづくり企業に、なぜPLMの構築が必要なのかを詳しく解説したが、今回は日本企業がPLM構築においてつまずく要因について解説していく。なお、本稿は、PLM構築を一緒に行っているファーストクロスの山口博之氏に一部協力をいただき、執筆を行った。

失敗あるある(1)経営者のPLM理解不足

 PLM構築でつまずく要因の中でも「あるあるの事例」を3つ挙げる。1つ目は「経営層の理解が得られない」、2つ目は「PLMを構築する担当者の権限不足」、3つ目は「PLM専門外のコンサルタントへの依存」である。

 それでは、1つ目の「経営層の理解が得られない」という要因から解説する。なぜ経営層からPLMへの理解が得られないのだろうか。それはモノづくり部門から経営幹部になる人が減少しているからだ。

 ここ最近、製造業の経営に関わる人物は、営業部や経営企画部などから昇進する人が増えているように感じている。当然、昇進の過程では、事業責任者としてモノづくりの部門を率いることもあるが、製品開発や設計、製造などのモノづくり現場に直接関わる実務経験がないまま経営層になることは珍しくない。

photo PLMの本質的価値を真に理解できる経営者は少ない (※)写真はイメージです

 そのため、PLMの本質的価値を“肌感覚”でリアルに感じられない人が増えている。例えば、設計部や調達部、生産管理部、生産技術部といった現場の実務経験を積まなければ、BOM(部品表)の扱いや部署ならではの管理方法、設計から製造への展開(どのように部品情報が部署間で伝達されているのか)を本当の意味では理解できない。

 結果として、製造業における「泥臭い」業務プロセスを網羅的に認識することが難しく「PLMシステムを構築すると何が良くなるのか」というイメージを持つことができない。そもそも、PLMやBOMなどの言葉自体を知らないケースも珍しくないほどだ。これらは欧州の製造業経営者にとっては当たり前の基礎知識となっているが、最近、筆者にも「講演を通じてBOMの基本から経営層に教えてやって欲しい」という依頼さえあり、面食らったことがある。

 大手製造業では特に効率化を求めるあまりセクショナリズムが進み、特定の業務経験しか持たず、他部署の業務プロセスへの理解(解像度)が低下している。勉強不足も相まって製造業の各オペレーションを理解できず、「PLMを構築したい」と部下や周囲から言われてもその必要性が分からず、判断ができない。そのため、プロジェクトをうまく進めることができないのだ。

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