このステップの中であらためて強調しておきたいのが、3つ目のステップであるBOM情報(構造)の整理だ。BOM情報(構造)は部門ごとに異なるため、そのすり合わせや整理が必要になる。
例えば、設計部においては、製品を構成する機能や構造、部品といった要素ごとに細かく階層化されたBOMが用いられる。工作機械を例とすると、加工モジュールとして、スピンドル、モータ、ATCなどがある。スピンドルに連なるものとして回転軸、ベアリングがあり、さらにベアリングもボールなどの階層に分かれている。設計BOMは製品の設計情報や仕様を正確に管理し、設計変更の影響範囲を把握するために欠かせないものだ。
一方で、調達部では「どの部品を自社で製造するのか、外部のサプライヤーから調達するのか」という内外作の区分を決定する目的や、RoHS指令やREACH規制といった環境規制への管理、そして原価を確認するためなどの目的でBOMを使用する。
また、製造部では、製品を効率的に生産するための各工程における具体的な作業手順、使用する設備、各工程に必要な作業時間や組み付けルールなどを管理するための情報がBOMに関連付けられる(いわゆるBOPの構築や運営が必要になる)。
このように、BOMは利用する部門やその目的によって、必要となる情報や構造が大きく異なる。大きくはE-BOM、M-BOMなどと大別されているが、これも企業や部門ごとにひも付けられる情報は異なっているため、企業や部門ごとにあらためて精査する必要がある。PLMを構築する際には、まず各部門がどのような情報を必要とし、どのような構造のBOMを利用するのか、そしてデジタルでの連携はどうするのかという点を明確に定義する必要がある。
そのため、PLM構築の初期段階において、自社の主要な製品機種における各部門の必要な手順や情報を具体的に洗い出し、各業務部門で必要となるBOMの情報を整理や統合をすることが、プロジェクトを成功させる上で重要なステップとなる。この初期段階での丁寧な情報整理を怠ると、後々のシステム構築や運用において大きな混乱を招くことになる。何度も言うが、将来の自社像を描きながら、アーキテクチャを構成する必要があることが、遠回りに見えても最終的には近道になるのだ。
以上に述べたように、PLMの構築には「経営者の腹くくり」と「実行に向けた専門組織の立ち上げ」が最低でも必要となる。そしてこの障壁を乗り越えたとしても「将来を見渡したBOM構造の構築」の要件定義を各部門と連携しながら地道に行っていかなければならない。経営者の一言で物事が成せるわけでもなく、各部門が前向きになり、非常に泥臭いプロジェクト推進が必要になる。CADベンダーの担当者が「100社に3社」と発言する意味がご理解いただけるはずだ。
中でも経営者の腹くくりはプロジェクト推進の一丁目一番地であり、PLM構築の前提条件となる。経営者の熱量にかかっていると言えば、それまでだが、ボトムアップではなかなか成せないのがPLMの構築である。
最後にプロジェクトの監視体制について、一言だけ述べておこう。プロジェクトがスタートすると、当初の目的や打ち手がないがしろになることが往々にしてある。実現が大変なので、実施内容はこれぐらいでよいかと手を抜いたり、スコープを縮小したり、検討を浅くしたりする。これを防ぐためにPMは常に監視、チェックする必要がある。
さて、ここまで泥臭いPLMの構築についての具体的なポイントや問題になりそうな事象について紹介してきたが、いかがだっただろうか。今回指摘したポイントが、日本の製造業のPLM導入促進に貢献する一助となり、PLM構築担当者の参考になれば幸いだ。
もちろん「経営者に火をつけて欲しい」「グランドデザインから協力して欲しい」「BOMを整理したい」が、そういう有識者とつながりがないということであれば、最強のプレゼンター(筆者)が直接お手伝いさせていただくことも可能だ。第1回の連載でも述べたが、日本の製造業こそPLMに投資をし、活用することでより力を発揮できると信じているので、その後押しをしていくつもりだ。
次回はドイツ訪問から見えてきたBOM運用の最先端を紹介したい。来月も楽しみにしていただければ幸いである。
⇒連載「ものづくり太郎のPLM講座」のバックナンバーはこちら
永井夏男(ながい なつお)/ものづくり太郎
ブーステック 代表取締役/製造業系YouTuber/PLMコンサルタント
大学卒業後、大手認証機関入社。電気用品安全法業務に携わった後、ミスミグループ本社やパナソニックグループでFAや装置の拡販業務に携わる。2020年から本格的にYouTuberとして活動を開始。製造業や関連する政治や経済、国際情勢に至るまで、さまざまな事象に関するテーマを、平易な言葉と資料を交えて解説する動画が製造業関係者の間で話題になっている。2024年4月1日にはKADOKAWAより、初の著書「日本メーカー超進化論 デジタル統合で製造業は生まれ変わる」を出版。年間の講演数は100件を超え、国内外での取材も積極的に行っている。
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