なぜ日本の製造業はPLM構築につまずくのか? よくある失敗事例を見てみるものづくり太郎のPLM講座(2)(4/5 ページ)

» 2025年07月02日 06時00分 公開

PLMの構築に必要な条件とステップ

 では、これらの失敗事例を踏まえて、PLM構築を成功させるためのカギについてまとめていく。今までに説明してきたことや事例で既に理解をいただいた担当者もいるはずだ。

 まず、絶対条件の一つとして挙げたいのが、経営層のトップがPLM改革を推進する姿勢を示すことだ。例えば、全従業員に向けてPLM構築の意義や期待を明確に表明したり、PLM推進に貢献した担当者を公の場で称賛したりすることで、会社的にPLM活動への「お墨付き」を与える必要がある。改革の意志を示すためには、社長自ら旗を振ることが最も望ましい。

 次に、プロジェクトリーダーを経営層が新たに任命することが必要だ。ここで重要なのは、プロジェクトリーダーが設計部長や生産管理部長といった既存の部門の役職を兼任するのではなく、PLM構築の専任の担当者として任命することだ。これにより、プロジェクトリーダーは既存の部門の利害関係に(ある程度)縛られることなく、全社的な視点で改革を推進しやすくなる。また、専属の担当者になることで、担当者自身の責任感と意欲が高まり、プロジェクトへの積極的な関与が期待できる。

 そして、もし社内のみで改革推進が難しい場合には、外部状況を良く知るコンサルタントの知見を借りることだ。当該コンサルタントから皆の前でPLMの重要性を説得してもらうことももちろん有効だ。筆者もよく講演をさせていただくが、欧州でのBOM、BOP運用の現状や、最新のPLM運用を話すと、来場者の目つきが明らかに変わることを何度も経験してきている。

 実際のプロジェクトの進め方だが、PLM構築においては、単にシステムを導入することだけを目的にするのではなく、綿密なグランドデザインを描くことから始めることが極めて重要になる。

 失敗事例でよく目にするのは、PLMシステムの導入そのものが先行している場合だ。社内の既存業務プロセスを見直し、改革する項目の議論が不十分なままプロジェクトが進んでおり、本質的な業務プロセス変革につながらない。役員の一言でPLMのプロジェクト推進は決まり、専任の担当者は切迫感からプロジェクトは進むものの、肝心の「何のためにやっているか」という議論が掘り下げられていない。いざ導入段階になり外部のシステムベンダーが投入されるが、目的が曖昧(あいまい)でシステムに落とし込むことができないケースもよくある。

 こういうケースは関わる人や組織全てに不幸を生み出すことになる。目的が曖昧なままプロジェクトが進んだ場合でも、システム導入を担う外部のシステムエンジニアは成果を求められるため、要件定義が不十分なシステムを導入せざるを得ない。しかし、目的や要件定義が不十分なシステムが現場の助けになるわけがないのだ。このような状況では、どんなに高価なPLMシステムを導入したとしても、「期待した効果は全く得られず、使い勝手の悪いシステムだけが残る」という残念な結果になる。

 PLMを効果的に活用するためには、前提として「何のためにPLMシステムを導入するのか」「改革によって何を実現したいのか」という目的を明確にすることは前提として必要となる。「設計リードタイムを短縮したい」「製品の品質管理(QC)レベルを向上させたい」「将来的な保守・メンテナンス戦略を描きモジュールの扱い方を検討できるようにしたい」など、具体的な目標が重要だ。そして、その目標達成に最適なBOM構造と業務プロセスを再設計することで勝負が決まるといっても過言ではない。

 あらためてPLM構築を成功させるためのステップを以下に示す。

  1. 目指すべき将来像を議論する(グランドデザインを明確にする)
  2. 各業務で利用されているデータデザインを精査する
  3. 1機種分で必要な各業務のBOM構造や情報を整理
  4. BOMを前提としてデータ単位の決定と各業務の連携方法を定義する
  5. 業務フローに対するIT化の範囲とデータの配置を前提にシステムに落とし込む

 システム導入ありきではなく、将来の自社に必要な業務プロセスから逆算してBOM情報を定義していかないと、意味のあるプロジェクトにはならないのだ。

photo PLM構築のステップ[クリックで拡大] 出所:山田太郎氏著「実践!PLM戦略 製造業の競争力優位の経営手法」

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