なぜ日本の製造業はPLM構築につまずくのか? よくある失敗事例を見てみるものづくり太郎のPLM講座(2)(3/5 ページ)

» 2025年07月02日 06時00分 公開

失敗あるある(3)PLM専門外のコンサルタントへの依存

 3つ目の要因として「PLM専門外のコンサルタントへの依存」が挙げられる。製造業の現実を理解していることはもちろん、特にBOMの構造や連携、そしてPLM構築の目的を理解していないコンサルタントにPLM構築支援を依頼しても、プロジェクトが成功する可能性は極めて低い(というか無謀)。

 コンサルタント業界ではPLM領域がブルーオーシャンに見えるらしく、国内外のコンサルティングファームの新たな参入が目立つ。その中には大手のコンサルティングファームなどもあるが、残念ながらPLM構築における成功事例を筆者はほとんど聞いたことがない。彼らは構造改革をきれいな絵で説明しがちだが、PLMに関する改革はきれいな絵を描くだけで成果を生み出せるほど甘くはない。

 現場の業務プロセスを細かく確認、分析して、各企業が何を重要視するのかといった未来を見据えた要望も考慮して方向性を導き出し、さらにシステムの要件定義とインプリメントをしていく必要がある。非常に難易度が高く、大手CADベンダーの担当者からは「(本当の意味で)成功する企業は100社の内3社程度だ」と聞いたこともある。PLMの構築にはPLM導入で成功した実績のあるPLMに特化したコンサルタントを招くことがカギだ。

 実績や知見が豊富なPLMコンサルタントを招き入れる大きなメリットは、自社内にはないノウハウを得られる点だ。日本の製造業は自己完結の考えから閉鎖的な場合が多く、社外の状況を知らないケースがよく見られる。自社の運用方法に対しては絶大な自信があるが、競合や同業他社の運用方法を把握しているわけではない。

 各企業を回ってみて、外の状況を知らないのに全てを自力でやろうとする企業が多いことに驚く。特にトヨタ系列ではこの傾向が強く、自社の力だけでPLMを我流に進めていこうとする。もちろんトヨタ系列の各社は地力を持っている。それは、認める。一方でPLM専門のコンサルタントを頼ることは外部で使われているツールや、運用方法を知ることも可能であり、プロジェクト推進にあたり方向性を正してくれる。失敗して大きく時間をロスすることも避けることもできる。

コンサルタントの選び方には注意が必要

photo コンサルタントの選定には注意が必要 (※)写真はイメージです

 ただ、先述したように、コンサルタントの選び方には気を付ける必要がある。大手コンサルティングファームの一部では、大きな絵空事を描き「あたかもできるようにふるまう」ものの、実際にそれを実現できるように正しく導いてくれるコンサルタントは本当に限られている。コンサルタントだからといって自社の方向性に関わる部分まで丸投げしてしまう企業も少なからずあるが、それはやめた方がよい。自社の方向性を定めぬまま業務がスタートしてしまうのは最悪のケースだ。自社の未来を見据え、どんな業務プロセスを構築すべきなのかという共通認識を、コンサルタントに依頼する前に社内で持つことが重要だ。

 実は、コンサルタントが「本物かどうか」を見抜く方法がある。まず、PMやPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)、各プロジェクトを実行する担当者と面談をすることだ。面談によって自社のプロジェクトに合うのか、実力は十分なのか、がおおよそ分かる。「そんなことは当たり前だろ」と感じるかもしれないが、自社のコアとなる業務改革を始めるのに、面談さえしない企業が意外にも多くあるのだ。

 その上で、コンサルタントとの面談時には以下の点を確認すべきだ。

  • 企業としていつからこの領域をやっているのか
  • 現在この領域ができるPM、PL(プロジェクトリーダー)、担当者はそれぞれどれぐらいいるのか
  • 実績はどれだけあるのか
  • 採用企業のエンドユーザー訪問(数社)
  • PMとPLの職務経歴書の確認

 これらについて確認ができれば、自社に合うかどうかは見極められる。それでも不安であれば信頼できる有識者をアドバイザーとして自社で雇用し、彼らとともに会社、実績、事例、人物のバックチェックを行えば選定ミスを防ぐことができる。

 もう少し掘り下げるとPLMの中でのどの領域が得意なのかも確認した方がよいかもしれない。たとえPLMに関する知識を持っていたとしても、PLMコンサルタントにはそれぞれの得意領域があるからだ。「製品のモジュール戦略の構築」「コンカレントな設計基盤の構築」「製品原価構造の整理」「E-BOM(設計部品表)を基にM-BOM(製造部品表)やBOP(Bill of Process、製造工程表)への展開をするためのBOMのクレンジング」といったさまざまな要望に応じて、最適なコンサルタントを選定する必要がある。

 ただ、PLMの構築には、PLM特化型のコンサルタントを招聘することも有効な手段であることは変わらない。高度な専門知識を外部に頼ることができるためだ。多くのプロジェクトでは、プロジェクトに関わるコンサルタントの良しあしで勝負が決まるといってもいいほど、重要なポイントになる。そのためには自社に合うコンサルタントを真剣に選ぶ必要がある。

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