苦境からの反転を目指す国内製造業。その復活に必要なものは何か――。ビッグデータ、3次元(3D)プリンタなど新たな技術活用が広がりを見せる中、最も大切なのは“失敗の覚悟”だった? グローバルで多くの企業を分析する調査会社ガートナーのコンサルタントに製造業が取り組むべき方向性について話を聞いた。
グローバル競争の激化や国内市場の縮小など、日本の製造業は厳しい環境に置かれている。各企業は反転を目指し新たな体制作りに力を注いでいる。新たなグローバル競争環境の中、日本が復活するためには何が必要か。ITを切り口に世界のグローバル企業の取り組みを分析するガートナージャパンのコンサルティング部門 グル―プバイスプレジデントのチャールズ・チャン(Charles Chun)氏に「製造業の状況と復活に向けて必要なもの」について聞いた。
MONOist 製造業を取り巻く環境の変化についてどう見ていますか。
チャン氏 製造業はグローバルでも大きな比率を占める産業だ。グローバル経済全体で見たとき製造業に関連するものが25%を占める。さらに日本の貿易額を見ると製造業の比率は70%にも及ぶ。R&D費用の75%を製造業が占めている。
大きな影響力を持つ製造業だが、取り巻く環境は大きく変化してきた。製造業全体を見た売上高はここ10年ほぼ変わっておらず、大きな成長がない状況だ。総従業員数は24%も減っている。しかし全体的な仕事の量は35%も増えているという。この背反する厳しい業務負担をどういうことで成し遂げたかというと、それはIT活用ということになるだろう。ここ10年間で製造業はITをうまく活用することで効率化を実現し、実質的な成長を遂げてきた。
ただここまでは効率化を中心とした動きが進んできたが、これからはより革新的なものが求められるようになってくる。従来の労働集約型の製造業には競争力はなくなり、付加価値を生み出すことが重要になる。そしてイノベーション(革新的商品)創出に使われるITへの投資が増えていくものだと見ている。
MONOist 革新的商品への期待感は高いものがありますが、定期的に生み出すことは非常に難しいように思います。
チャン氏 イノベーションが重要だということは、ずっと指摘されている問題だが、今求められているのは革新的な商品を“より早く”市場に送り届けることだ。
例えば、トヨタ自動車はハイブリッド車「プリウス」(関連記事:累計販売台数500万台の内訳に見る、トヨタ製ハイブリッド車の知られざる歴史)を世界で最初に出した。それに続いて発売した企業とは(米国では)5カ月の違いだった。「5カ月早く世に送り出したこと」でトヨタ自動車は今でもハイブリッド車市場を主導する立場にある。
また、スマートフォン市場でも同様だ。米アップルは、最初の5年間スマートフォン市場をほぼ独占してきた。つまり、イノベーションで新たな市場を生み出すことが大きな先行者利益を生み、今まで以上に“イノベーションを起こすこと”の価値が高まっているといえるだろう。
現在のサプライチェーンは非常に複雑さが増している。例えば、先日ガートナーは世界的に優れたサプライチェーンを行う企業トップ25を発表した(関連記事:世界で最もサプライチェーンがイケてる企業は? ――1位はやっぱりあの会社)が、1位は6年連続でアップルだった。
アップルのサプライチェーンを見ると、非常に複雑で洗練されていることが分かる。アップルは米国で設計・デザインを行い、世界中から部品を調達・購買している。低価格製品についてはODMを活用しており、製造は主に中国で行う。そしてこれらを世界各国で販売する。これらの多くの地域に散らばるさまざまなサプライヤーおよび部品を管理し、約1〜1年半に設定された各製品のライフサイクルをほぼ完璧に運営している。
これは単純なサプライチェーンという言葉で片付くレベルではなく、もはや1つの“エコシステム”を構築しているといってもいいものだ。管理や組織改革などイノベーションを生み出すにはそれに見合った体制づくりなども必要になってくる。
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