日立北米インダストリー事業のミッシングピース、買収の決め手は文化の親和性製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)

日立のインダストリーグループが北米市場でのさらなる成長に向けてフレックスウェア イノベーションを買収した。日立の買収の狙い、フレックスウェアが買収を受けた理由などについてフレックスウェア CEOのスコット・ウィトロック氏と日立で北米インダストリー事業を統括する小財啓賀氏に聞いた。

» 2022年12月23日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 2022年度から体制を刷新した日立製作所(以下、日立)において、最大規模の組織となっているのがコネクティブインダストリーズセクターである。2021年度時点の売上高規模は2兆7528億円で、これは全社連結売上高の25%に当たる。

 コネクティブインダストリーズセクターの中でも、デジタルソリューション群「Lumada」を活用した事業成長のけん引役として期待されているのが、2021年度以前のインダストリーセクターを中核とするインダストリーグループである。同グループでは、日立が製造業として培ってきたプロダクトやOT(制御技術)に、Lumadaの基盤となっているITを組み合わせた「トータルシームレスソリューション」を推進しており、日本国内では一定の成果を得ている。

 インダストリーグループのさらなる成長では、このトータルシームレスソリューションの海外展開、特に北米市場での展開が重要になってくる。2019年には、北米市場でのOTを担うJRオートメーション(JR Automation)を買収しており、ITについても日立ヴァンタラやグローバルロジック(GlobalLogic)などの日立のグループ企業が支援する体制が整っている。ただし、北米市場でOTとITを橋渡しする機能が欠けていることが課題になっていた。この“ミッシングピース”を埋めるべく、2022年9月に日立が買収を発表したのがMES(製造実行システム)やSCADA(監視制御システム)のSI事業を手掛けるフレックスウェア イノベーション(Flexware Innovation、以下フレックスウェア)である。

 フレックスウェアはどのような企業なのか。日立はなぜフレックスウェアを買収しようとしたのか。過去5年間の年平均成長率が20%以上あるにもかかわらず買収を決めた理由は何なのか。フレックスウェア 創業者 社長兼CEOのスコット・ウィトロック(Scott Whitlock)氏と、日立の北米におけるインダストリー事業を統括する日立インダストリアルホールディングスアメリカ(Hitachi Industrial Holdings Americas) 社長兼COOでフレックスウェアの会長に就任した小財啓賀氏に話を聞いた。

モノづくりの現場におけるMESは“Microsoft Excel Spreadsheet”の略?

MONOist フレックスウェアの創業からこれまでの沿革についてお聞かせください。現在の主力はMESやSCADAのSI事業ですが、当初から手掛けていたのでしょうか。

フレックスウェア 創業者 社長兼CEOのスコット・ウィトロック氏 フレックスウェア 創業者 社長兼CEOのスコット・ウィトロック氏[クリックで拡大] 出所:日立

ウィトロック氏 私自身は、社会人となった初日から、インダストリアルオートメーションのSIやPLCのソフトウェア統合などを手掛けてきた。フレックスウェアの創業は1996年だが、それまでにMESやSCADAに今後の成長のチャンスを感じて、共同創業者とともに1990年代から積み上げてきた上での創業だった。

 同じ製造ITシステムのPLM(製品ライフサイクル管理)などが登場したのはその後で、われわれの事業と関わるようになったのはさらに後のことだ。現在、MESやSCADAは、航空機エンジンなど複雑な機器のメーカーが採用している他、モノづくりのより上流側のシンプルな製品の製造にも活用されている。

MONOist 日本市場におけるMESやSCADAの採用はプロセス製造業が先行しており、組立製造業ではまだそれほど進んでいません。北米市場ではどうでしょうか。

ウィトロック氏 北米市場でMESは広範に導入されている。日本市場でも、自動車メーカーやサプライヤーが導入していると聞く。ただし、日本の自動車業界では、いわゆるカンバンを使った製造管理を行う文化もある。各国でそれぞれ事情は異なっているだろう。

MONOist 北米で既にMESが広く導入されているのであれば、市場成長の余地はあまりないのではないですか。

ウィトロック氏 モノづくりのデジタル化を推進するIT、OT、IIoT(Industrial Internet of Things:産業IoT)の観点から、MESやSCADAを統合していく余地があると考えている。これまでのモノづくりの現場におけるさまざまなデータの受け渡しは、手作業によるExcelなど帳票データへの入力とその共有が多くを占めているのが実情だ。Manufacturing Execution Systemの略であるMESは上位のシステムであり1990年代から導入が始まったが、より下位のモノづくりの現場におけるMESは“Microsoft Excel Spreadsheet”の略だといわれることもあった。日立が推進するトータルシームレスソリューションは、現場と経営をつなぐことがコンセプトであり、そこには膨大な機会があると考えている。

MONOist 近年のフレックスウェアの成長をけん引してるInductive Automationの「Ignition」について教えてください。

ウィトロック氏 IgnitionはInductive Automationが2003年に投入した製品だ。競合のMES/SCADAである「Wonderware」や「CIMPLICITY」はライセンスの制約があって、SIerが顧客に最適なソリューションを提供する際にフラストレーションがたまることが課題だった。SIerが創業したInductive Automationが、このフラストレーションを打破するため大学のコンピュータサイエンティストを雇って開発したのがIgnitionだ。

 Ignitionはこの10年間で大きくビジネスモデルを変えた。ユーザー数、I/Oポイント数が無制限でライセンスの価格体系もシンプルにした。Webサイトからダウンロードすればすぐに使えて、連続2時間の制限はあるが何度でもテストできる。また、オンラインの無料トレーニング「Inductive University」も受講できる。SIのSIによるSIのためのMES/SCADAであり、モノづくりのデジタル化進める上で古いMESを置き換えるのに最適だと考えている。

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