本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は、台湾の釣具メーカーであるOKUMAが運営する観光工場「OKUMA CENTER」の訪問記を、工場長のインタビューを交えてお届けします。
本連載はパブリカが運営するWebメディア「ものづくり新聞」に掲載された記事を、一部編集した上で転載するものです。
ものづくり新聞は全国の中小製造業で働く人に注目し、その魅力を発信する記事を制作しています。本連載では、中小製造業の“いま”を紹介していきます。
今回紹介するのは、台湾・台中市にある釣具メーカーOKUMA(オクマ)が運営する観光工場「OKUMA CENTER(オクマセンター)」です。
「観光工場」とは、台湾の行政機構である経済部産業発展署が2003年から推進している取り組みによって誕生した、製造業をテーマとしたエンターテインメント施設です。年間で2000〜3000万人が訪れるといわれており、台湾の製造業のブランド価値や認知度を高める場となっています。
OKUMAは1986年に台中市で創業したリール(釣具)メーカーです。2013年から観光工場を運営し、2020年には国際観光工場の認証を取得しました。認証を得た工場では、英語や日本語に対応できるスタッフが常駐し、多言語の案内表示も整備されています。約160カ所ある観光工場のうち、この認証を取得しているのは2割ほど(2025年2月取材時点)だといいます。
今回は、OKUMA CENTERの工場長(館長)を務める呉徳利(ゴ・トクリ)さんに施設をご案内いただきながら、観光工場の誕生経緯やその思いについて伺いました。
ものづくり新聞 まず、こちらの観光工場がどのようにして生まれたのか教えてください。
呉さん OKUMAの使命は「釣りを通じたレジャーライフの楽しみを創造すること」です。これまでも大学の釣りサークル設立支援や、台湾各地での釣り教室/体験会、釣り大会の開催などを行ってきました。
2005年に本社を台中市の潭子区へ移転した際、社内の一部を釣り活動の拠点にしようという構想が始まりました。その後、経済部産業発展署が観光工場の設立を奨励していると知り、政府の支援を得て、“製造業からサービス業へと転換する好機”と考えたのです。
ものづくり新聞 呉さんがOKUMAに入社し、工場長になったきっかけを教えてください。
呉さん 私はもともと高雄市で働いていましたが、台中市に引っ越したタイミングで、OKUMAの創業者から声を掛けていただいたのがきっかけでした。
それ以前は、観光開発や水族館、Web関連企業などに勤めていました。また、彰化市にあるお米の観光工場の管理者として働いた経験もあります。
観光工場の工場長を務めるには、観光と工場の両方に熟知している必要があります。私にはその両方の経験があり、力を発揮できると感じました。
また、魚が好きな大学生の息子とよく一緒に釣りに行くこともあり、いつか魚や海に関わる仕事をしてみたいという思いがありました。
ものづくり新聞 この観光工場は、どのような思いを込めて作られたのですか?
呉さん 私はずっと海洋教育に関わる仕事をしたいと思っていました。ただ、学びばかりでは堅苦しく、退屈な場所になってしまうので、「学び」と「遊び」のバランスにこだわって施設づくりに反映してきました。
釣りにはマナーや、海を汚さないための守るべきルールがたくさんあります。この観光工場を通じて、釣りの文化やライフスタイルを広めながら、海や自然を守ることの大切さを発信していきたいと考えています。
ものづくり新聞 他の観光工場も訪問されたそうですが、どのような印象でしたか?
呉さん 台湾には観光工場が165カ所(2025年2月時点)ありますが、そのうち100カ所以上を見学しました。どこも魅力あふれる観光工場でした。ただ、内装や全体の雰囲気は似ていることが多かったですね。実は、台湾の観光工場のデザインは特定の2社が担当しているため、施設内のデザインや構成がどうしても似てしまうのです。
それに対し、私たちはデザインや構成を一から自分たちで考え、必要なデザイン会社も独自に選びました。釣り文化の継承や海洋教育というテーマを掲げつつ、その前提として「自分も観光客としてここに来てみたいと思えるか?」を常に問い掛けながら、楽しく遊べる/学べる場所にすることを目指しました。
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