全国発明表彰で、旭化成の電極長寿命化技術が「恩賜発明賞」受賞知財ニュース(1/2 ページ)

発明協会は、令和7年度(2025年度)全国発明表彰の受賞者を発表した。最も優れた発明に贈られる「恩賜発明賞」には、旭化成の船川明恭氏および蜂谷敏徳氏による「ニッケルを用いた電極長寿命化技術」が選ばれた。

» 2025年05月30日 07時00分 公開
[MONOist]

 発明協会は2025年5月27日、令和7年度(2025年度)全国発明表彰の受賞者を発表した。最も優れた発明に贈られる「恩賜発明賞」には、旭化成の船川明恭氏および蜂谷敏徳氏による「ニッケルを用いた電極長寿命化技術」が選ばれた。また、ベンチャー企業や大学、公設試験研究機関などの発明や意匠の完成者に贈呈する未来創造発明賞としては、物質・材料研究機構(NIMS)およびプリウェイズの三成剛生氏と、江南大学の李万里氏による「耐酸化性を向上したプリンテッドエレクトロニクス向け銅インクの発明」が選ばれた。

ニッケル電極で電解装置の耐久性を大幅向上

 全国発明表彰は、1919年(大正8年)に始まった帝国発明表彰を起源とし、日本の科学技術と産業の振興に寄与することを目的としている。発明協会が主催し、文部科学省、経済産業省、特許庁、WIPO(世界知的所有権機関)、日本経済団体連合会、日本商工会議所、日本弁理士会、朝日新聞社などの後援を受けている。

 今回「恩賜発明賞」に選出された「ニッケルを用いた電極長寿命化技術」(特許第6120804号)は、食塩水を電気分解し、塩素や苛性ソーダを製造する電解装置(食塩電解)に使用される電極の劣化を抑制し、長期間の安定運転を可能としたものだ。

photo 電解装置の外観[クリックで拡大] 出所:発明協会

 従来は、電解装置の運転を停止する際、電極が劣化する現象が起こるため安定運転が妨げられるという課題があり、各種機械設備を導入して対策が取られていた。今回の発明では、機械設備を用いることなく、特定の構造を有するニッケルを用いることで、停止頻度に関係なく電解装置における電極の劣化を抑制し、安定運転を可能としたものだ。旭化成 交換膜事業部の船川氏と、膜・水処理事業部の蜂谷氏が中心となり開発した。この技術が搭載された電解装置は、既に世界中で使用され、採用が拡大している。また、アルカリ水電解などの電解プロセスへの応用も期待されている。

photo “特定の構造を有するニッケル”のイメージ図[クリックで拡大] 出所:発明協会

プリンテッドエレクトロニクス向け銅インクが「未来創造発明賞」

 第2表彰区分の「未来創造発明賞」には、NIMSの高分子・バイオ材料研究センター グループリーダーでプリウェイズ代表取締役社長である三成剛生氏と、江南大学 インテリジェント製造学院 准教授の李万里氏による「耐酸化性を向上したプリンテッドエレクトロニクス向け銅インクの発明」(特許第7531239号)が選ばれた。

 今回の発明は、従来のプリンテッドエレクトロニクスに用いられていた高価な銀インクの代替となることを目的とした、耐酸化性を向上した銅インクの開発に関するものだ。

 銅は安価で導電性に優れるが、酸化されやすい弱点があり、インク化した際の保存安定性や、印刷後の導電性維持が課題となっていた。今回の発明では、大気下でも安定した銅錯体にニッケル錯体を添加することで、加熱還元後に銅配線をニッケルが自発的に被覆する銅/ニッケル錯体インクを開発した。導電性を担う銅は大きな粒子が、表面を覆うニッケルは緻密な膜が析出する機構を実現し、高い導電性と耐酸化性を両立した。

photo (a)銅/ニッケル錯体インク、(b)銅/ニッケル錯体インクの印刷プロセス、(c)銅/ニッケル錯体インクのSEM/EDX測定結果。銅粒子の表面をニッケルが被覆することで耐酸化性が向上する[クリックで拡大] 出所:発明協会
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