自社の製品開発戦略をしっかり把握しているでしょうか? 製品開発・生産技術の効率化を追求していたとしても、しっかりとした戦略とマネジメント意識がなければ意味がありません。本連載では、マネジメント技術としてのライフサイクル管理を考えていきます。
不況になると企業の投資は商品力を強化する方向に向かいます。自社の製品にイノベーションを起こし、商品力を強化するということは、市場に対して圧倒的な価格決定権を持つことができるからです。
リーマンショックを機に世界同時不況が引き起こされましたが、そんな中でも任天堂の「Wii」や「Nintendo DS」などは過去のどの製品よりも早く5000万台や1億台を突破しました。また、AppleのiPhoneなども前年同期比で7倍強といった伸びを見せ、この不況化でも圧倒的な市場への影響力を持っています(注)。
このような商品や製品を生み出すイノベーションは誰でもできるものではありません。しかも、このような商品や製品はそう簡単にどの企業でも作れるものではありません。
注:「Apple、iPhone 3GS好調で増収増益」(ITMedia News 2009年7月22日)
「Wii、世界累計販売5000万台に」(ITMedia News 2009年3月26日)
「ニンテンドーDS、1億台突破 世界累計販売」(ITMedia News 2009年3月12日)
『キャズム』で有名なジェフリー・ムーアは、別著『ライフサイクルイノベーション』(注)の中でイノベーションには3つの効果があるといっています。
1つ目は「差別化」です。イノベーションを実現することで競合他社と差別化できWiiやiPhoneのように市場に対して価格決定権を持つということです。
2つ目が「中立化」です。これは競合他社にいち早く追いつき、自社の不利な状況をできるだけ少なくする戦略です。
3つ目は「生産性向上」で、イノベーションを起こして生産性を向上させることで、同じものをできるだけ低コストで実現し、余ったリソースをほかの施策へ再投資するということです。
また、ムーアはイノベーションを起こすことで、「差別化」や「中立化」および「生産性向上」といった効果ばかりではなく、イノベーションのプロセスをうまくコントロールしないと「浪費」という局面を迎えるともいっています。
誰も見たことのない独創的な商品を作り出すことは、企業にとって非常に重要なテーマです。しかし、他社にない独創的な商品を市場に出せたとしても顧客に受け入れられるかは大きな賭けでもあります。
この賭けには大きなリスクが付きまといます。リスクを低減する方法としては「他のプレーヤの行動と意味を知ろうとする努力」を行い、自社が乗り遅れたことを素早く察知し、他のプレーヤの行動パターンを参考にして同等がそれ以上のパフォーマンスを出せるようなマネジメントプロセスを構築していく必要があります。
注:『ライフサイクルイノベーション』(ジェフリー・ムーア著、栗原潔訳/翔泳社、2006年/ISBN:978-4798111216)
日本企業は欧米企業に比べ「弱い本社機能と強い現場力」とよく表現されますが、それはまだ多くの日本企業の考え方に「技術の高い製品を出せば競争に勝てるという『技術信仰』」が根強いからではないでしょうか?
海外における経済環境の変化が一夜にして全世界中の経済環境にまで影響する今日において、現場力の強化だけでなく本社機能の戦略的なマネジメントを欧米企業並みにレベルアップしていかないと、日本の製造業は海外の競合に太刀打ちできなくなります。
そのために必要な施策が、プロダクト・ライフサイクル・マネジメントといわれるマネジメントビジネスモデルです。
日本では、プロダクト・ライフサイクル・マネジメントはPLMと訳されて紹介されているため、多くの人がPLM=ソフトウェアと認識しています。この認識はプロダクト・ライフサイクル・マネジメントを1つの側面からしか認識できていないといえます。
例えば、SCMと訳されているサプライチェーンマネジメントはソフトウェアとしても存在しますが、受注・発注・生産・在庫・出荷の一連の流れをマネジメントするビジネスモデルの存在なしにSCMシステムを構築できません。
SCMのビジネスモデルとしてはトヨタ生産方式や『ザ・ゴール』注で有名になった制約理論など、SCMを実現するためのさまざまなビジネスモデルをベースにSCMシステムは構築されています。
同じように、プロダクト・ライフサイクル・マネジメントもPLMシステムの構築以前にプロダクト・ライフサイクル・マネジメントを実現するためのビジネスモデルを明確にする必要があります。
注:『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著/三本木 亮訳/ダイヤモンド社、2001/ISBN:978-4478420409)
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