グローバルで安く買うために 調達に必要な「人材×データ」の視点製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)

揺れ動くグローバルサプライチェーンを前にして、国内製造業はデータドリブンな調達業務への転換を迫られている。しかし、実際の進捗はどうなのか。A1A 代表取締役に話を聞いた。

» 2024年08月07日 07時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 製造業が他社に対する競争優位性を確保する上で、調達業務は経営的な観点から見ても非常に重要だ。しかし顧客ニーズが多様化し、グローバルサプライチェーンの複雑化も進む中で、市況に合わせて調達業務を行っていくことは容易ではない。

 カギを握るのが、データドリブンな調達業務への転換だ。これまで担当者の経験や勘で行われていた価格評価や調達先の決定といった業務を、客観性のあるデータに基づき実行する。幅広い視点に立った迅速な調達意思決定と、フィードバックサイクルを回すことで、自社の事業戦略と調達戦略の策定と実行を素早く展開することを目指す。

 しかし言うは易しで、こうした業務の在り方にシフトするのは一筋縄ではいかない。データを活用した調達DX(デジタルトランスフォーメーション)のグローバルでの現状について、自動車業界などを対象に見積書のデータ活用支援サービス「UPCYCLE」を展開する、A1A 代表取締役の松原脩平氏に話を聞いた。

不足している「人材」と「データ」

MONOist 調達コスト最適化をグローバルで進める上で、データ活用が欠かせないものとなっています。現時点での製造業の取り組みについて、進捗をどう見ますか。

松原脩平氏(以下、松原氏) 最近、国内製造業の調達部門で「グローバル」というワードが入った名前に変更している例をよく見聞きする。日本本社がグローバル調達への意識を高めている証拠だと見ている。

A1A 代表取締役の松原脩平氏

 そのグローバル調達だが、調達の意思決定を誰が持つかで大きく3つのタイプに分かれると考えている。1つ目は海外拠点の調達担当者に決裁権がなく、サプライヤーから集めた情報を日本本社に送って判断を求めるタイプだ。意思決定の迅速さは損なわれるが、本社がグローバル全体の調達コストを直接管理できる。

 2つ目は決裁権を海外拠点に一部渡しているケースだ。競争力の源泉となる、戦略的に重要なコア部品だけ、調達の意思決定を日本本社で行う。それ以外の汎用的な部品は現地に意思決定を任せる。どの程度の裁量をゆだねるかの程度は企業によって異なる。3つ目はほとんど海外拠点に決裁を丸投げしているパターンだが、こういう企業もある。

 先進的な自動車メーカーなどは、海外拠点の権限をコア部品に関わらない範囲で広げていくことを目指している。物流コストやレジリエンスを含めて考えると、基本的には調達から製造まで「地産地消」で行うことが望ましい。

 ただ、多くの企業は、1つ目に挙げたように、海外拠点の担当者には情報収集だけを任せて、決済は日本で行うという仕組みを採用している。全社共通の調達データ基盤があれば、各国の拠点が完全に独立して意思決定を行っていける。そうした状態は、業務効率性の観点から見ても理想的だ。だが、現実にはなかなかそこまで到達することは難しい。

MONOist 何が障壁となっているのでしょうか。

松原氏 1つは、データ共通基盤の導入自体が非常にハードルが高いからだ。そもそも国内拠点ですら調達データの更新をリアルタイムで実現できていない状態で、いわんや海外では、ということになる。

 もう1つは十分な調達スキルを備えた人材が、現時点では海外拠点にそこまで多く在籍していないことだ。ここでいう調達スキルには、もちろん、安い調達先を見極めるといった調達コスト低減に関するものも含まれる。だが、それだけでない。信頼関係を築いてともに成長できるサプライヤーを見つける能力も非常に大事だ。サプライヤーの課題を見つけて、ともに改善活動に励むことで、コスト競争力を高めていけるスキルだ。

 調達戦略は単に部品や材料の調達コストを減らせればいいというものではない。サプライヤーと長期的な信頼関係を築くことが大事な場合もある。信頼があるからこそ、サプライヤー側が技術改善や技術革新などに取り組みやすくなる。自社にとって戦略的に重要なコア部品に携わるサプライヤーであれば、こうした関係を築くのが大事だ。部品や材料の位置付けをしっかりと定めて調達戦略を決める必要がある。こうしたスキルは、長年にわたり調達業務を経験した人材だからこそ身に付くものだ。

 もっとも、そうした人材であっても、サプライヤーに関するデータがなければ海外拠点で同じことをすることは難しい。というのも前提として、サプライヤーの見極めには比較対象となる企業が必要だからだ。

 日本であればサプライヤー候補がぱっと思い浮かぶという人でも、例えば、フィリピンやインドネシアや東南アジアなどではそうもいかない。グローバルで共有される調達データベースがあればコスト評価も行えるが、そうでなければ容易ではない。

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