いまや製品品質を決定づけるのはソフトウェア、開発を巡る3つの主要な変化製造マネジメント インタビュー

PTCは2023年5月15〜18日、米国マサチューセッツ州ボストンで年次イベント「LiveWorx 2023」を開催した。本稿ではPTC シニア バイスプレジデントのクリストフ・ブレイジャル氏による、モノづくりで高まるソフトウェア開発の重要性と課題についての解説を抜粋して紹介する。

» 2023年06月08日 08時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 PTCは2023年5月15〜18日(現地時間)、米国マサチューセッツ州ボストンで年次イベント「LiveWorx 2023」を開催した。期間中、PTC シニア バイスプレジデントのクリストフ・ブレイジャル(Christoph Braeuchle)氏に、モノづくりで高まるソフトウェア開発の重要性と課題について聞く機会を得た。同社によるIntland Software買収の狙いと併せてその内容を紹介する。

PTCのクリストフ・ブレイジャル氏

規制やユーザーニーズの変化にどうやって応えていくか

 ブレイジャル氏は近年、製造業を中心とする産業界ではソフトウェア開発を巡る3つの主要な変化があったと語る。

 1つ目は製品品質がさまざまな側面で、ソフトウェア次第で決まる状況になっていることだ。ソフトウェアはハードウェアの制御機能などを通じて、製品を扱う顧客の満足度に大きな影響を与える。ただし、これらのソフトウェアは規制対応や品質管理に加えてサイバーセキュリティ対策も講じる必要があるだろう。

 2つ目はソフトウェア開発に求められるスピードがさらに加速していることだ。従来の開発期間を短縮するために、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)などを実行する仕組みが必要とされている。さらにブレイジャル氏は「こうした仕組みは、(ユーザーインタフェースなどの面で)全社的な自動化を可能にする形で作られなければならない」と指摘した。

 また、より大規模なアジャイル開発に対応するために、開発したソフトウェアコンポーネントを別の形で再利用する仕組みをつくる必要性も増している。当然、こうした再利用自体は以前から取り組まれてきたことだが、「対象となるソフトウェアのコンポーネントがどこで使われてきたか、どういう意図で使っていたのかという文脈を把握しきれていない」(ブレイジャル氏)という問題があった。

 3つ目は、法規制や顧客ニーズの変化、サプライチェーンの混乱、パンデミックによる在宅勤務への移行など、産業界を取り巻く環境の移り変わりが絶え間なく生じている点だ。こうした変化に対してソフトウェア開発では、従来通りの要件定義やテスト管理といったプロセスでの迅速な対応が困難になりつつある。ブレイジャル氏は「環境変化がソフトウェア、さらにはハードウェアなど製品開発プロセス全体にどのような影響をもたらすかを素早く把握すべきだ」と指摘する。

1つのサービスでモノづくりのソフトウェア情報を一元管理

 ブレイジャル氏はこれらの変化を背景に、PTCはIntland Softwareを買収したと語る。Intland Softwareはアプリケーションライフサイクル管理ソフトウェア(ALM)「Codebeamer」を提供する企業だ。同氏は先に挙げた3つの環境変化に伴う課題を解決する上で、Codebeamerが非常に貢献すると主張する。

 「Codebeamerはソフトウェアへの要求や要件、テストの情報、ハードウェアのスペックや、モデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)、テストオートメーションなどさまざまな情報、機能を格納できる。ここにソフトウェアのコンポーネントを格納して流用できる点が一番の強みだ。大規模アジャイルにおいても、Codebeamerという1つのサービス上で要求、テスト、アジャイルリリースも含めて全プロセスを管理できる。査察や管理用のレポートを見るといった規制対応の効率化に悩む企業も多いが、こうしたプロセスも高速化できる。ソフトウェアのトレーサビリティーを確保しつつ開発を加速するにはCodebeamerが最適だと考えている」(ブレイジャル氏)

 すでにCodebeamerは、大手自動車メーカーなどにも導入されている。自動車業界ではグループ企業が多種多様な自動車のブランドを展開し、さまざまなバリエーションの車種を展開するケースがある。ただ、これらの製品では車種をまたいで機能を共通化することも多々見られる。Codebeamerに搭載されているテンプレート機能を活用すれば、全社レベルで自動車の共通機能を定義して、バリエーションごとに機能を柔軟に変化させられるという。

 またブレイジャル氏は「モノづくりの製品開発においては、社外とのコラボレーションも重要性を増している。Codebeamerには知的財産権やアクセス権について厳格に設定する機能があり、こうしたコラボレーションにおいても優れた効果を発揮する」と説明している。

 PTCはCodebeamerが製品の販売後、顧客のもとで収集されたデータを設計プロセスへとフィードバックして役立てる、クローズドループの実現において重要な役割を担うものと捉えている。クローズドループの実現は、変化し続ける市場環境やユーザーのニーズへの対応をより容易なものにし得る。

 さらに、ブレイジャル氏は「CodeBeamersは非常に短期間で導入、展開できる上、ユーザー企業の従業員も扱うためのトレーニングをすぐに終えられる。生産性を向上させやすく、事業的に価値のある(モノづくりの)ビジネスの成功につながるだろう」と語った。

(取材協力:PTC)

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