サステナブルなモノづくりの実現

設計から廃棄まで、PTCは製品ライフサイクル全体で環境負荷低減を支援するLiveWorx 2023

PTCは年次イベント「LiveWorx 2023」を開催した。本稿ではキャサリン・クニカー(Catherine Kniker)氏の講演内容を抜粋して紹介する。同氏はサステナブルな設計エンジニアリングの在り方をテーマに解説を行った。

» 2023年05月24日 10時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 PTCは2023年5月15〜18日(現地時間)、米国マサチューセッツ州ボストンで年次イベント「LiveWorx 2023」を開催した。本稿では、PTC エグゼクティブ バイスプレジデント 最高事業戦略・マーケティング責任者であるキャサリン・クニカー(Catherine Kniker)氏の講演内容を抜粋して紹介する。同氏は製品ライフサイクル全体を通じたサステナブルなモノづくりの在り方をテーマに解説を行った。

サステナビリティのために設計エンジニアの役割にも変化

 クニカー氏は「PTCが有する上位顧客の内、90%近くはサステナビリティの取り組みにコミットしている。多くの顧客は自社製品をよりクリーンなものにすることを強く求めている。そのために当社は、企業のデジタル変革を推進して、顧客のサステナビリティ目標達成を支援する」と語った。このような目標を達成する上では、製品設計のプロセスが重要な役割を果たす。製品のライフサイクル全体でのカーボンフットプリントの大半は、コストと同様、設計プロセスで決まるからだ。

PTCのキャサリン・クニカー氏

 こうした動向の中で、設計エンジニアに期待される業務にも変化が生じている。クニカー氏は「機械系のエンジニアは、仕様に沿って設計を行い、時間の経過とともに少しずつ(サステナビリティ目標に向けた)改善がなされていくことを期待するだけでは、もはや十分とはいえない。AI(人工知能)やシミュレーションを含めて情報を横断的に活用することで、設計プロセスにおいてイテレーションを行い、頻繁にテストする必要がある」と指摘した。

 さらに、この領域におけるPTCの優位点について、クニカー氏は「リッチな3D CADのデータなどを活用することで、製造とサービスをより効率的にできる。この点で、PTCは競合他社と差別化できる」と説明した。

品質を損なわず不要な設計箇所を削減する

 PTCの製品を活用してサステナブルな製品づくりを推進している企業の1つが、エンジンメーカーであるカミンズ(Cummins)だ。エンジンの軽量化と共に、全エンジン部品の製造において資源循環の考えを盛り込んでいくことを目標にしている。

 カミンズの担当者は、製品設計において製品の強度や剛性に関する目標達成のために、製品ライフサイクル全体で必要以上に材料を使わないようにすることを目指していると語った。そのためにPTCの3D CADツール「Creo」や、ジェネレーティブデザインを駆使して、本来不要な部品や設計箇所などを製品から減らす努力を重ねている。

 同担当者は「Creoの分析ツールを使うことで、設計のイテレーションを行い、効率的に作業を進められる。こうした技術を適用することで、材料の使用量を適用前と比べて10〜15%削減できる。これはサステナブルな目標の達成だけでなく、コスト削減にも通じる。さらに軽量化したエンジンを搭載するトラックは燃費向上の効果が見込める。まさに、トリプルウィンだ」と語った。

パートナー連携拡大でサステナブル設計の支援を強化

 LiveWorx 2023において、PTCは企業のサステナブル設計支援に向けて、アンシス(Ansys)とアプリオリ(aPriori)とのパートナーシップを強化すると発表した。

 PTCはアンシスとの連携を強化することで、同社の材料情報管理を行うソリューションと、PTCのCreoやPLMソリューション「Windchill」の間でより統合したワークフローの実現が可能になるとしている。クニカー氏は「製品に使用する材料の選択は、サステナビリティの実現で非常に重要な要素だ。エンジニアは設計ツール内で材料の選択ができるようになる。材料の変更は時に大きなコストを伴うが、サプライヤーの変更などで対応できればコストを大幅に削減できる。企業にとって大きなメリットとなるはずだ」と訴えた。

 またアプリオリとの連携強化は、「デジタル工場に関するソリューションをCreoやWindchillと組み合わせることで、3Dマテリアルやジオメトリ、マテリアル情報を基に、設計した製品が製造可能か、製品のコストやサステナビリティの実現度合いはどのくらいかなどを推測できるようにする」(クニカー氏)ことにつながるとした。

製造やサービス、廃棄プロセスのサステナビリティ実現も支援

 PTCは「製造プロセスは環境問題に対して10%(の役割を果たす)にすぎない」(クニカー氏)としつつも、サプライチェーンの動向にかかわらず、自社内でコントロールを取りつつカーボンフットプリントを低減していける領域だとも評価する。そして同プロセスのサステナビリティ向上に貢献するソリューションとして、産業向けIoT(モノのインターネット)プラットフォーム「ThingWorx」の「Digital Performance Management」を紹介した。

 また、製品ライフサイクル全体でカーボンフットプリントを削減するには、製品の運用時やアフターサービスの提供時についても改善活動が必要だ。

 クニカー氏は「(サービスなどのプロセスで)カーボンフットプリントを生む主要なケースが2つある。1つはサービス提供時に、製品のもとに専門家に出向いてもらう、あるいは逆に製品を中央の場所に一度戻す場合に生じる。もう1つは、不要、あるいは誤ったスペアパーツの配送などで生じてしまう場合だ」と指摘する。PTCではこうした顧客課題解決のために、サービスライフサイクル管理(SLM)のソリューションやフィールドサービス管理(FSM)ソリューション「ServiceMax」などを組み合わせて提供している。

 製品廃棄のプロセスでも、リサイクル率の向上など、サステナビリティ実現に向けた取り組みの重要性が高まっている。クニカー氏はこのプロセスを「製品ライフサイクルの中で最もデジタル化が進んでいない。チャレンジングな領域だ」と評価する。PTCは同社のコアソリューションを活用することで、製品の分解指示などを伝え、どの部品を分解、再製造(remanufactured)、リユースしてリサイクルに回せるかといった情報の提供が可能になると訴えている。

 製品材料の循環利用を推進する動きを念頭に、クニカー氏は「EUのバッテリーパスポートなど、多くの規制が始まろうとしている。材料の循環利用は安全保障上重要だと先進国では考えられているようだ。業界全体でこの分野への投資が継続的に行われるだろう」と展望を語った。

(取材協力:PTC)

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