日本周辺の安全保障環境はいっそう厳しさを増している。日本にとって米国は唯一の同盟国であり、「アメリカファースト」を掲げるトランプ氏であっても日本は米国と良好な関係を維持する必要がある。
世界の政治は製造業に大きな影響を与えます。特に、政権交代や紛争などで状況が一変することもあり得ます。そうした国際情勢について、経済安全保障の観点から分かりやすく解説します。
世界の行方を左右する米国大統領選を経て、トランプ政権が発足した。今思い返せばドナルド・トランプ氏の圧勝だった。
大統領選挙はまれに見る大接戦になるというのが大方の見方だったが、いざ開票作業が始まるとすぐにトランプ氏の優勢が明らかとなった。トランプ氏は選挙戦の鍵を握ると言われたペンシルベニアやジョージア、ウィスコンシンやノースカロライナなど7つの激戦州を全勝し、選挙人の数でもカマラ・ハリス氏を90人近く上回る312人を獲得した。
また、トランプ氏は自身が出馬した2016年と2020年の選挙を上回る7500万票余りを獲得しただけでなく、議会の上院と下院でも共和党が多数派となるトリプルレッドと呼ばれる状況となっており、今回の選挙は正にトランプ氏のための大統領選挙だったと言えよう。今回の選挙は民主党のバイデン政権の4年間を評価する機会となったが、民主党の歴史的大敗はバイデン政権に国民がNOのジャッジを下したことも意味する。
トランプ政権の外交や安全保障政策における最重要課題は、言うまでもなく中国である。外交や安全保障政策で重要な役割を担う重要ポストには対中強硬派が相次いで起用される。
国務長官には、中国の新疆ウイグル自治区における人権問題を非難し、台湾防衛の重要性を訴える上院議員マルコ・ルビオ氏が就任。安全保障担当の大統領補佐官には、陸軍特殊部隊出身で、対中強硬派の急先鋒といわれる下院議員のマイク・ウォルツ氏が起用された。このような人事からも、トランプ政権が強硬な対中政策を打ち出していくことは間違いない。
中国による現状打破的な行動は依然として続き、台湾有事のリスクは依然として排除できない。2024年5月に台湾では新政権が誕生したが、中国はそれ以降2回も台湾本島を取り囲むように大規模な軍事演習を実施し、中台関係はいっそう冷え込んでいる。北朝鮮は核ミサイル開発を続け、2024年はロシアとの軍事的結束を深めており、日本周辺の安全保障環境はいっそう厳しさを増している。
こういった状況では、日本にとって米国は唯一の同盟国であり、「アメリカファースト」を掲げるトランプ氏であっても日本は米国と良好な関係を維持する必要がある。バイデン氏のように簡単な相手ではないが、いかにしてトランプ氏と良好な関係を築けるかが、今後の日米関係の行方を左右することになろう。
では、肝心な今後の日米関係はどうなっていくのか。その前提で重要になるのが、トランプ氏と個人的な信頼関係を構築できるか、トランプ氏から信頼を獲得できるかどうかである。
2016年の米国大統領選でトランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏に勝利した際、日本政府の間ではどうやって新たな日米関係を作っていけばいいのかと不安の声が広がった。しかし、それを見事に払拭したのが当時の首相である安倍晋三氏だった。当時、トランプ氏の勝利宣言後、安倍氏はニューヨークにあるトランプタワーを外国の首脳としていち早く訪れ、ゴルフクラブを手土産に信頼関係を構築することに尽力した。
そして、それが功を奏し、安倍氏は日米首脳会談を実施する度にトランプ氏とゴルフを通じて親睦を深め、トランプ氏から個人的な信頼を獲得にすることに成功した。当初の不安がうそかのように、安倍トランプ時代の4年余りは良好な日米関係が続いた。
前大統領のジョー・バイデン氏は自由や人権、民主主義といった価値や理念に重きを置くが、トランプ氏は自国第一主義の下、米国の利益を最大限相手から引き出そうとする商取引的なディール外交を基本とする。国家と国家ではなく、個人的な信頼関係をそのまま外交に転用する姿勢だ。
「日本には5万人規模の米軍関係者が駐留し、対中国で日本は米国とって重要なパートナーだから米国は日本に擦り寄ってくる」などという理屈は、トランプ氏には全く通用しない。バイデン氏に接していたようなやり方をすれば、日本は米国との関係を損なうリスクがある。
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