技術一筋の職人もDX人材に ヤマハ発動機の育成プログラム「テミル:ラボ」製造業のヒトづくり最前線(2)(1/3 ページ)

モノづくり人材をいかに育てるか。これはベテランの高齢化や技術継承問題に悩む製造業全体の共通課題だ。本連載では先進的な人材育成を進める企業にスポットを当てて、その取り組みを紹介する。第2回はヤマハ発動機の「テミル:ラボ」を取り上げる。

» 2025年01月20日 07時00分 公開

 スマートファクトリーの実現で課題となる要素は多い。自動化設備に掛かる巨額のコストだけでなく、自社工場に最適なソリューションを判断し実現する人材も必要だ。さらにプロジェクトチームを立ち上げ、PoC(概念実証)を行っても具体的な打ち手が見いだせず先に進まないこともままある。導入しやすい工程からスマート化を試みるも、どうしてもスマート化できない工程にぶち当たり、全体としてKPIを達成できないこともある。

 二輪車や電動アシスト自転車、マリン製品やロボティクス製品など、多様な製品を製造するヤマハ発動機も工場のスマート化において同様の課題を抱えていた。その解決のため、同社が2019年からスタートした社内プロジェクト「テミル:ラボ」をご紹介しよう。

 テミル:ラボの活動は大きく分けて2つある。1つが「閃きプラットフォーム開発」だ。現場経験豊富な社内メンバーが、適切なレベルの機能を搭載した、低コストで汎用性の高いソリューションを開発する。例えば、電動車イスのドライブユニットを活用した廉価版AGV(自動搬送機)を開発し、ヤマハ発動機の生産工場で業務効率化に活用されているのだ。

 そしてもう1つの活動が、2021年からスタートした「パフォーマー人財育成」だ。生産現場で働く従業員を迎え入れ、スマートファクトリーの実現に必要なプログラミングやデータ解析のスキル/ナレッジ教育、プロジェクト運営などを指導し、それぞれの出身現場でスマート化をけん引する人材に育て上げるプログラムだ。すでに過去3年間で、取引先を含む社内外の現場技術者100人超がテミル:ラボを卒業し、各現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。

 今回は「パフォーマー人財育成」に焦点を当て、その活動についてテミル:ラボを推進するヤマハ発動機 生産技術本部 設備技術部 加工・組立設備G グループリーダーの伊藤祐介氏と、同 自働・搬送技術開発Gの梶原幹夫氏にお話を聞いた。

ヤマハ発動機の伊藤祐介氏(写真左)と梶原幹夫氏(写真右) 出所:ヤマハ発動機

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「汎用」「簡単」「ローコスト」をテーマに

――テミル:ラボを設立したいきさつと、その目的を教えてください。

伊藤祐介氏(伊藤氏) 私たち設備技術部は、当社の製造現場で活用できる新しい技術開発を役割としています。その一環として、2019年からは生産現場と連携したスマートファクトリーの企画や、そのためのデバイスやシステムの開発に焦点を当てています。平たく言えば、生産現場のDXを設備の面から推進する役割を担っています。

 その際、一方的に新しい技術を現場に押し付けるのではなく、現場ごとに異なるニーズをくみ取って最適な設備開発を行い、さらに、そのデバイスやシステムを扱えるよう現場の人材を教育して送り出すことを始めました。これが「テミル:ラボ」というプロジェクトに発展したのです。

――つまり、テミル:ラボの役割は「現場最適のデバイス・システム開発」と「DX人財の輩出」といえるのでしょうか。

伊藤氏 特徴をお伝えしたいので、もう一歩踏み込んだ説明をします。まず、当社の主力事業である二輪車生産は、少量多品種でモデルライフサイクルも短いのです。その上、部品の鋳造まで内製するため、工程や構成部品が多くなっています。

 そのため、スマートファクトリーを実現しようにも、導入コストが高額だと採算が取れません。ほとんどの市販の自動化ソリューションでは対応できない工程が多く、スマート化が思うように進まなかったのです。そこで、テミル:ラボの閃きプラットフォーム開発では「超汎用」「簡単」「圧倒的ローコスト」の3つをコンセプトとして、当社のスマートファクトリーを実現できるデバイスやシステムの開発を行っています。

 また当社には、約20年にわたる「理論値生産」という考え方があります。各工程の作業に理論上の稼働時間を求め、理論上の最速時間を目指す効率化です。この理論では、工程上の無駄を省くだけでなく、作業者の行動におけるロスの削減も試みます。

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