技術一筋の職人もDX人材に ヤマハ発動機の育成プログラム「テミル:ラボ」製造業のヒトづくり最前線(2)(2/3 ページ)

» 2025年01月20日 07時00分 公開

ITに不慣れな方が驚異的に成長する

――テミル:ラボの「パフォーマー人財育成」について伺います。どのような方がターゲットになるのでしょうか?

梶原幹夫氏(梶原氏) 実はテミル:ラボに派遣される参加者は、50代以上が多いのです。技術一筋の職人でPCの操作に不慣れな人も多く、現場のスマート化やDXへの対応に苦戦する人もいます。それでも、1年足らずでITリテラシーを習得して、そこからさらに学び続けることで現場のDXをリードする存在に成長しています。

――どのような教育をされているのですか?

梶原氏 スキル教育で代表的なものは、PythonやC++などプログラミング言語の学習です。さらに実践的な教育では、例えば私は自動・搬送技術開発グループに属するので、AGV(自動搬送機)に関する知識などを教えられますし、加工・組立設備グループの伊藤は組み立て工程のシミュレーションなども教えられます。

 また、現場でDXを実現するには最終的にチームワークが大切なので、チームビルディングのスキルや、プロジェクトを推進するための論理思考なども身に付けてもらっています。

――ITの活用に慣れていない人には非常にハードルの高い内容に思えます。

梶原氏 私たちも、当初はITリテラシーの高い人や若年層でないと、習熟は難しいと思っていました。しかし、講習を始めてみれば50代後半の従業員でもITに興味を持って、Excelのマクロに始まり、プログラミングにもどんどんハマっていくのです。

伊藤氏 むしろ、ITの活用に不慣れな人材の方が大きな「ひらめき」を持っていて、驚異的な速度で習熟していき、新しいアイデアを実現しようとします。感覚的に仕事を突き詰めてきた人の頭の中には、これまでロジカルに表現されなかっただけで、「もっとこうすればいいのでは?」というあいまいな考えは膨大にあるということですね。実際に、彼らが新しい言葉やデータ、プログラミングを通じて表現するアイデアは斬新で実効性のあるものが多く、われわれの閃きプラットフォーム開発にも生かせる知見となっています。

 それに、年齢を重ねても、やはり技術者はモノづくりが大好きで、好奇心旺盛なのです。だから、私たちも「これが現場にどんな利益を生むか」という話より、「これができたら楽しくないですか?」と好奇心をくすぐる教え方をしています。技術者としての探究心が彼らのモチベーションなので、安易に答えを教えてガッカリさせないよう配慮しています。

――さらに、テミル:ラボでの学びを盛り上げるような工夫はありますか?

梶原氏 テミル:ラボへの参加に当たっては、自身の生産現場の課題を持ってきてもらうことにしています。その具体的なソリューション開発を目標に学びを深めてもらい、またメンバーみんなで解決策をディスカッションもします。

 さらに、参加者が制作したデバイスを公開するショールームも用意しています。そこで利害関係のない外部の方々や、地域の小学生などにも参加していただき、忌憚(きたん)のない意見をもらっています。それが、より使いやすくスムーズに動作する必要を痛感させられるような、「気付き」の場になっているのです。さらに、参加者みんなでディスカッションをして、各自の気付きをブラッシュアップしていきます。解決思考で突き詰められる環境が参加者のやりがいを醸成しますし、具体的な課題解決のソリューションを持ち帰ってきてくれると生産現場の上司からも好評を博しているようです。

――卒業生の活躍の具体例があれば、お聞かせください。

梶原氏 面白い例として、テミル:ラボに1年間在籍した、ある組み立て工程のオペレーターがいます。彼にはExcelのマクロを指導しただけなのですが、卒業して事業所に戻ってから、私たちが教えていないモーションキャプチャー技術を独自で勉強し、作業員の行動解析によってタイムロスになる作業の無駄を検知して、動き方を改善するソリューションを実際の現場に導入したのです。

 1年間とはいえ、テミル:ラボでオートメーションのさまざまなモデルを知り、仲間と議論して解決に取り組んだ経験が、卒業後に爆発したケースですね。

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