中堅製造業のERP導入で学ぶ グループの情報一元化の実現と経営分析基盤の構築製造業ERP導入の道しるべ(2)(1/2 ページ)

SAPのERPを例に、ERPの導入効果や業務効率化のアプローチなどを紹介する連載「製造業ERP導入の道しるべ」。第2回では「SAP S/4HANA」の導入でグループの情報一元化を実現し、経営分析基盤を構築した中堅製造業の事例を解説する。

» 2025年03月25日 10時00分 公開

本連載の狙い:

日本の製造業の多くが、情報の見える化、IT人材の不足、システム維持コストの高止まりなど、さまざまな課題を抱えている。そうした課題を解決するためにERPの導入を検討している企業も多いが、実際に製造業がERPを導入することで、どのような効果が得られるのかが分からないままでは話が進まない。

本連載では、日本で既に多くの企業で導入されているSAPのERPを例にとって、クラウドにも対応している「SAP S/4HANA」の導入を支援してきたわれわれの経験を基に、ERPの導入効果や業務効率化のアプローチなどについて紹介する。

 前回は、売上高数千億円ほどの準大手製造業におけるERP(Enterprise Resource Planning/企業資源計画)導入の課題や狙い、そして業務効率化のアプローチについて紹介した。今回は売上高2000億円ほどで、グローバルに展開する中堅製造業が「SAP S/4HANA」の導入によってグループの情報一元化を実現し、経営分析基盤を構築した事例を解説する。

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グローバル展開する中堅製造業におけるERP活用の悩み

 今回紹介する企業には「全ての製造拠点で情報を一元化したい」という課題があった。本社では10年ほど前にERPが導入されたが、多くの海外拠点では現地のシステムや、自社開発した独自システムを運用していた。そのため、グループ全体でのデータ収集がExcelを使った手作業になっているなど、情報管理の負荷が高いという悩みを抱えていた。そうした無駄な作業を排除し、情報を一元化して活用するために、グローバルでのERP展開の計画を進めていたが、全ての拠点への導入が完了するには長い時間を要することが分かってきた。

 中堅企業におけるERPのグローバル展開が難しい理由の1つが「IT人材のリソース不足」だ。例えば、日頃は本社で全体管理を行っているIT担当者が、各拠点と調整しながらERP展開を進めるのは難しい。一方、どこの拠点から優先的にERPを導入していくかについては、本社との業務の類似性がどれだけ高いか、業績に与える影響が高いか、などを考慮して決められるだろう。とはいえ、実際には新工場が優先されたり、企業の成長に応じて戦略が変わってきたりなど、さまざまな事情によって当初の予定通りには進まず、その都度全体計画が見直されることも多い。

 今回の事例でも、ERPを全社で活用することで、コード体系の統一や業務プロセスの標準化、システム統合によって多くの課題解決につながることは認識していたものの、以上のような理由からグローバル展開のハードルが高かった。

グローバル経営の課題とは

 そもそも、この企業が目指していたのは「グローバルでの経営管理の高度化」だ。とはいえ、全ての拠点へのERP導入には時間がかかってしまう。そこで、別のアプローチで経営管理の高度化を実現するために、以下のように関連する課題を整理した。

(1)全社、事業ごとにKPIを標準化する

 経営判断の早期化や意思決定のプロセスをシンプル化し、外部環境の変化のスピードに合わせるには、PDCAのサイクルを高速に回す必要がある。そのため、全社で標準化したKPIを基に事業運営を行い、円滑な意思決定を実現しなければならない。また、プランの柔軟な変更や、他拠点/事業で成果のあったアクションを横展開できるようにすることも求められる。さらに、社内の成功/失敗事例をノウハウとして共有、活用することで、組織としての変化対応力を強化し、成長スピードの向上を図りたいと考えている。

(2)製品単位の採算管理、予実管理を実現する

 同じ製品群でも、生産拠点や市場によって利益率や需要が異なるため、個々の製品の採算管理を必要な粒度で行わなければならない。採算や予実については、金額や数量の観点を連携し、販売や生産、調達、在庫管理などの計画/実績データを統合しながら、需要と供給のバランスを最適化する必要がある。また、最適な生産拠点や、利益を最大化する製品割合(プロダクトミックス)を通じて、事業計画および全社の予算や中期計画などと連動することで収益性の向上を図りたいと考えている。

(3)データ利活用に関する業務コストを削減する

 製造業においては、グローバルでのKPI標準化や製品単位の採算管理を行った上で、データの一元管理や利活用のための業務負荷削減が求められる。それを手作業で行い、各事業部や海外拠点と都度確認していたのでは、業務コストへの負荷が高くなる。また、事業部側もそういった作業にストレスを感じてしまうと、予算編成時や月次の業績報告において、議論してアクションを決めるために本来発揮すべき力を出すことが難しくなる。

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