大河内記念会は、「生産のための科学技術の振興」を目的として生産工学、生産技術などに関する研究開発において卓越した業績を挙げた研究者や企業を表彰する「大河内賞」の贈賞式を行った。
大河内記念会は2025年3月25日、「生産のための科学技術の振興」を目的として生産工学、生産技術などに関する研究開発において卓越した業績を挙げた研究者や企業を表彰する「大河内賞」の贈賞式を行った。デンソーや豊田中央研究所の「電動車向け小型/低損失逆導通IGBTの開発及び高効率製造」など8件が表彰された。
大河内賞は、故大河内正敏氏の業績をしのび、生産のための科学技術の振興を目指して創設され、2024年度(令和6年度)は第71回目の開催となる。今回は大河内記念賞1件、大河内記念技術賞6件、大河内記念生産賞1件が表彰された。
大河内記念賞に選ばれたのは、デンソーとトヨタ自動車、豊田中央研究所が開発した「電動車向け小型/低損失逆導通IGBTの開発および高効率製造」となった。受賞者は、(元)デンソー EHV 電子設計部 課長の妹尾賢氏、豊田中央研究所 半導体デバイス研究領域 主任研究員 博士の山下侑佑氏、デンソー ウエハ製造部 室長の志賀智英氏、デンソー パワーデバイス技術部 担当係長の野間誠二氏、デンソー パワーデバイス技術部 担当係長の大河原淳氏となる。
受賞した逆導通IGBTは、トヨタ自動車と豊田中央研究所が基礎開発を行ったSMA(Schottky and Multi-layered Anode)構造を採用し、デンソーが製品化に成功したものだ。
インバーターに搭載されているパワーカードは従来、IGBTとダイオードという機能の異なる2つの素子が用いられていた。ただ、機能が異なる素子を一体化する場合、それぞれの素子の個別最適化が難しく、一体化と素子の個別最適による性能向上の両立が課題となっていた。そこで、新構造であるSMA構造を採用し、IGBTとダイオードを一体化した逆導通IGBTを実現したのが今回の技術だ。SMA構造の採用により、IGBTとダイオードの性能を両立させるだけでなく、ライフタイム制御工程(へリウムイオンや、電子線、中性子線の注入が必要な特殊工程)の削減による低コスト化と生産性向上を実現した。これにより、複数の生産工場への展開が容易になった。この製品を搭載したユニットは2022年以降、累計100万台以上の電動車に搭載されているという。
大河内記念技術賞には6つの技術が選ばれた。1つ目は、旭化成による「錠剤賦形材料としての高成形性/高流動性結晶セルロースの開発」だ。受賞者は、(元)旭化成 セオラス技術開発部 製薬グループ長の大生和博氏、旭化成 ポリマー事業部 品質保証部 部長の天川英樹氏、(元)旭化成 セオラス技術開発部 部長の伊吹一郎氏となる。
旭化成が製造する結晶セルロース「セオラス」はパルプを原料とする白色の粉末で、錠剤の製造において、割れ欠けを防ぐための成形性と、製造装置内で均一に素早く充填(じゅうてん)させるための流動性の両立が求められる。今回表彰された技術は、従来難しかったこれらの両立を実現し、多孔質状の粒子形状を有し、その内部に適切な空隙を持つ「セオラス(UFグレード)」を工業的に生産することを可能としたものだ。これにより、小型の錠剤や、微量もしくは複数の有効成分を含む錠剤の生産性を向上し、より飲みやすい医薬品や健康食品を実現する錠剤の提供に貢献したとしている。
2つ目は、旭化成ファーマと産業技術総合研究所(AIST)が開発した「スマートセル活用によるコレステロールエステラーゼ(CE)大量生産技術開発」だ。受賞者は、旭化成ファーマ 診断薬事業部酵素製品部 マネージャーの小西健司氏、旭化成ファーマ 診断薬事業部 開発研究部 主幹研究員の村松周治氏、産業技術総合研究所 生命工学領域生物プロセス研究部門 総括研究主幹の酒瀬川信一氏、産業技術総合研究所 生命工学領域生物プロセス研究部門 主任研究員の安武義晃氏、産業技術総合研究所 生命工学領域長の田村具博氏となる。
CEは脂質異常症の診断薬に用いられる原料酵素の1つで、健康診断などでLDLコレステロール値やHDLコレステロール値の算出に使用される。CEは微生物によって生産されるが、生産メカニズムが複雑で従来技術では大量生産の実現が難しかった。そこで、旭化成ファーマと産業技術総合研究所は、独自の「スマートセル技術」を開発し、CEの大量生産に寄与する機能未知遺伝子を特定することに成功した。これにより従来製法比で生産能力30倍以上となるCEの大量生産に成功し、製品化を実現したという。
3つ目は、JFEスチールが開発した「高濃度硫化水素含有天然ガス輸送鋼管用鋼材の開発」だ。受賞者は、JFEスチール スチール研究所副所長の菊池直樹氏、JFEスチール スチール研究所構造材料研究部 主任研究員の嶋村純二氏、JFEスチール スチール研究所製鋼研究部 主任研究員の外石圭吾氏、JFEスチール DX戦略本部DX企画部 主任部員の松井穣氏、JFEスチール 西日本製鉄所(福山地区)厚板部厚板工場 副工場長の今仲大輝氏となる。
受賞したのは、高濃度硫化水素を含有する天然ガス輸送に利用可能な鋼材に関する技術だ。JFEスチールでは、高度な冷却制御により低合金設計で高強度と低表層硬度を両立する「極表層硬度制御技術」や独自の非破壊検査により全量品質保証が可能な「極表層硬度全面検査技術」を開発し、高濃度硫化水素含有環境での耐硫化物応力割れ性能を向上するとともに、量産時の品質保証を含めた安定製造を実現した。また、スラブ鋳造時にクレーターエンド計という新しいセンサーを用いた軽圧下位置適正化による「中心偏析制御技術」の開発に取り組み、耐水素誘起割れ性能向上による鋼材品質の安定化などにも貢献している。
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