トランプ再来と日本企業への影響とは5分で分かる経済安全保障

トランプ再来によって日本企業にはどのような影響が考えられるのか。それを左右する上でもまず重要なのが、日本の首相がいかにトランプ氏と良好な関係を築けるかだ。

» 2024年12月06日 06時00分 公開
[ジョワキンMONOist]

編集部より

世界の政治は製造業に大きな影響を与えます。特に、政権交代や紛争などで状況が一変することもあり得ます。そうした国際情勢について、経済安全保障の観点から分かりやすく解説します。

 米大統領選挙の結果、共和党候補のドナルド・トランプ氏が勝利した。世論調査ではトランプ氏とカマラ・ハリス氏の支持率が拮抗(きっこう)し、まれに見る大接戦となり、結果が出るまでに数日掛かるとの報道もあったが、いざ蓋を開ければすぐにトランプ氏の優勢が明らかとなった。トランプ氏は選挙戦の行方を左右するペンシルベニアやジョージアなど激戦7州を全勝し、選挙人の過半数となる270人を大きく上回る312人を獲得し、226人のハリス氏を大差で破った。

 また、トランプ氏は自身が出馬した2016年と2020年の大統領選挙を上回る獲得票数を記録し、議会上院では共和党が過半数を獲得するなど、第2次トランプ政権を発足させるに当たり最高の環境を手にしたと言える。

日本企業を左右するのは首相と大統領の関係構築

 では、トランプ再来によって日本企業にはどのような影響が考えられるのか。それを左右する上でもまず重要なのが、日本の首相がいかにトランプ氏と良好な関係を築けるかだ。2016年の大統領選の時、過激な発言を続けるトランプ氏が勝利したことで、日本国内ではトランプ氏とどう付き合っていけばいいのかという不安感が漂ったが、それを払拭したのが元内閣総理大臣の安倍晋三氏だった。

 安倍氏は外国の首脳として一番手にトランプ氏を訪問し、黄金のゴルフクラブを手土産に親密な関係作りに努めた。それが功を奏し、両氏は毎回のようにゴルフ外交を行い、安倍氏はトランプ氏から個人的な信頼関係を獲得することに成功。安倍トランプ時代の日米関係は当初の不安がうそかのように良好なものとなった。

 内閣総理大臣の石破茂氏には安倍トランプ関係の再現が求められるが、「石破氏は安倍氏ほどゴルフ通ではない」「直感で動くトランプ氏と石破氏は相性が良くないのではないか」との声がすでに専門家から聞かれ、友情あふれる関係は難しいとの指摘がある。

 トランプ氏は自由や民主主義などの価値観や理念ではなく自国第一主義の下、米国の経済的利益を最大限引き出そうとする実利=ディール外交を基本とする。首脳と首脳ではなく、個人と個人の関係を重視することから、石破氏には安倍氏のように日米関係を大事にすることで「米国にはこういったメリットがある」と商取引的かつテクニカルに対応し、それによって個人的な友情関係を作っていくことが求められる。

間接的、直接的なリスクとは

 そして、トランプ再来による日本企業への影響は石破トランプ関係の行方にも左右されるが、現時点で2つのリスクがあると考えられる。1つは、間接的なリスクだ。トランプ氏は選挙戦の時から、中国製品に対して一律60%の関税を課し、中国を除く外国製品に10〜20%の関税を課すと主張しており、これはトランプ氏のマニフェストであり、政権発足後に実行に移されていくことになるだろう。

 これは日本を直接標的としたものではないが、当然ながら諸外国には同盟国であっても日本も含まれており、その影響を避けることは難しい。トランプ氏が日本のみを非関税とする特例措置を講じることはないだろう。そして、上述のようにトランプ氏は政治的に最高の環境を手にし、2期目の政権運営は再選リスクを考える必要がないので、1期目以上により強硬で大胆な貿易規制措置を実施していく可能性がある。

 もう1つは直接的なリスクだ。バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、先端半導体そのものの獲得、製造に必要な材料や技術、専門家の流出などを防止する大幅な輸出規制を開始した。しかし、それのみでは依然として抜け道が存在すると懸念を抱くバイデン政権は2023年1月、先端半導体の製造装置に強みを持つ日本とオランダに同規制で足並みをそろえるよう要請し、日本は2023年7月、14nm以下の先端半導体に必要な製造装置や、微細な回路パターンを基板に焼き付ける露光装置、洗浄や検査に使う装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えた。

バイデン路線よりも強硬になる?

 現時点でトランプ氏がこの覇権競争にどう取り組んでいくのか不透明な部分が多いが、仮にバイデン路線を継承し、先端半導体分野の対中輸出規制をさらに強化することになれば、バイデン政権のように必要に応じて日本に足並みをそろえるよう要請することになる。だが、バイデン政権の時と比べてその姿勢はより強硬で懲罰的なものになる可能性がある。

 そこで日本がトランプ氏の納得しないような姿勢を示せば、直感で判断する傾向が強いトランプ氏が日本に対して疑念を抱き、何かしらの貿易的圧力をかけてくる可能性がある。

 バイデン政権でさえも、日本やオランダの輸出規制措置が自らの求める水準に達していないことや、両国の半導体関連企業が中国に販売した製造装置を修理し予備部品を販売していることに不満を抱き、規制強化に努めるよう政治的圧力をかけてきた。また、バイデン政権はドイツや韓国など他の同盟国にも同様の措置を求めており、トランプ氏が半導体覇権競争でバイデン路線を継承すれば、もっと強い態度で同盟国に要請してくる可能性がある。

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