グローバルではクラウドERPが主流に 国産製品はガラパゴス化してしまうのか製造業は「AI×プラットフォーム」の時代へ(2)

製造業でも注目される「AI」。製造業向けDX戦略シリーズ第3弾の本連載では、クラウドERPなどIT基盤へのAI搭載の流れについて解説する。第2回はクラウドERPが持つユーザーメリットを解説していく。

» 2025年01月23日 07時00分 公開

 今回は次世代標準といわれているクラウドERPについてお話ししましょう。まず、最初に「クラウドERP」を定義します。大きなくくりの中ではSaaSのカテゴリーに入りますが、ここではより厳密に、クラウドのプラットフォーム上で稼働するERPをクラウドERPとします。

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 ここでいう「プラットフォーム」はPaaS(Platform as a Service)と言い換えることも可能です。代表的なプラットフォームとして、Salesforce、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)が挙げられます。Amazon Web Service(AWS)にもプラットフォーム機能がありますが、どちらかといえばデータセンターに近い役割を提供していると認識するのが正しいかと思います。

 この定義に沿うと、実は2025年現在、国内で導入可能なクラウドERP製品はわずかです。例を挙げれば、Salesforceプラットフォーム上の「Rootstock」、Azureプラットフォーム上の「Dynamics365」、OCIプラットフォーム上の「NetSuite」などです。ERP製品の2大ベンダーであるSAPとOracleは、今後、全てのERP製品のクラウド化を宣言しています。数年後、世界市場でERP製品のデファクトスタンダードがクラウドERPとなることは確実といえるでしょう。

 一方で、日本国内で流通しているERPの大半はSaaS ERPだといえます。当初はオンプレミスERPとして開発された製品をどこかのデータセンターに置き、ユーザーに月額使用料を請求する仕組みです。市場情報では国内大手IT企業がこれまで開発、販売してきたERP製品の大半は、新規開発の中止が発表されています。これは従来のオンプレミスERPからクラウドERPへの移行を断念することを意味しており、中長期的な観点では、Made in JapanのERP製品は、かつての携帯電話と同じように、ガラパゴス化の道をたどるのかもしれません。

 なぜ、世界のERP市場ではクラウドERPが主力になってきたのでしょうか。それはオンプレミス製品と比べてクラウドERPは圧倒的なユーザーメリットがあるからです。世界有数のPaaSベンダーであるSalesforceを取り上げて、具体的な機能例を列挙してみましょう。

【Salesforceプラットフォームが提供する代表的な環境・ツール】

  1. ローコード開発環境
  2. BIツール(ダッシュボード機能)
  3. チャット機能
  4. ワークフロー機能
  5. モバイル対応
  6. AI(人工知能)エージェント

 では、こうした環境、機能はERP製品の中でどのように活用されるのか、幾つかのユニークな機能と運用についてご紹介します。

ローコード開発環境

 国内のERPパッケージ導入ではアドオン開発が焦点になります。日本の製造業の強みである「現場力」の裏返しで、現場の意向が強目に反映されやすい現状を反映しているといえるでしょう。

 従来のパッケージ製品では、追加開発はコーディングで行うことが一般的でした。この手法のデメリットは、パッケージ製品のソースコードが書き換えられてしまうため、その後、パッケージベンダーがリリースするバージョンアップに適応出来なくなることにあります。毎年発生する高額な保守費用は有名無実な保険となってしまいます。

 一方、ローコード手法による追加機能開発ではプログラムソースコードに一切の変更を加えずに済みます。毎年バージョンアップが行えるようになり、ERP製品としての陳腐化が起こらず、5年たっても10年たっても最新機能でのERP運用が可能です。

BIツール

 一般的なBIツールは運用時、ERPやBIツール間のデータ連携が必要です。通常、バッチ処理によるデータ連携が行われますが、この手法ではリアルタイムのデータではない、過去データを用いてBIツールを運用することになります。

 一方、同一プラットフォーム上のBIツール運用では、ERPのトランザクションデータがリアルタイムに反映されるため、常に最新データによるKPI(重要業績評価指標)分析が可能となります。

ワークフロー機能

 これまでERPとワークフローの親和性は決して高くありませんでした。両者の連携に当たっては、ERP内のプロセスから外部のワークフローシステムへと連携した上で、申請承認を実行した後、承認結果をERPに戻す業務設計が必要でした。

 一方で、ERPと同じプラットフォーム上にワークフローエンジンがある場合、ERPの持つ任意の業務プロセスに、任意のワークフローを設定することが可能です。新規取引先登録や与信設定、受注出荷処理、購買処理など、業務上必要なプロセスごとにワークフローの任意設定や変更(階層/ルート)を行えます。これは内部統制上、大きなメリットとなります。

AIエージェント

 世界の業務アプリケーション市場ではAI競争が激化しています。日本ではPCレベルのAI運用で止まっているのですが、この一因はAI活用にはクラウド環境が必要だからです。つまり、オンプレミスERPやSaaS ERPでは技術的にAI活用は不可能です。

 一方、前述のSalesforce、Azure、OCIに限らず、WorkdayやSnowflake、ServiceNowなど主要なクラウドアプリケーションベンダーはAI技術に巨額の投資を行っています。Salesforceが2024年9月の「Dreamforce 2024」で発表したAIエージェントは、市場に好意的に受け止められ、その後の株価上昇に大きく寄与しました。クラウドERPにおけるAI活用はまだ始まったばかりです。今後は需要予測、販売予測など、今まで属人的に行っていた業務領域、加えてロジック構築が難しいMRP(資材所要計画)計算の「ゆらぎ処理」などでAI活用が期待されています。


 クラウドERPの持つ先進性、革新性をご理解いただけたでしょうか。次回はクラウドERPの母体ともいえるプラットフォームについてもう少し踏み込んだお話をいたします。

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筆者紹介

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栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役

経歴
1995年 マレーシアにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。タイ、日本、中国に現地法人設立
製造業向けERP「ProductionMaster」とMES「InventoryMaster」リリース
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asia設立
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却。パナソニックFSインテグレーションシステムズ(株)代表取締役就任
2020年 Rootstock Japan(株)代表取締役就任


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