実際の現場でのエピソードに基づき「DX推進の指針(DX Compass)」となるような視点を解説する本連載。第3回となる今回は、製造業の3大指標であるQCDの一つ、Delivery(納期)の理想と現実について考えます。
製造業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、避けては通れない課題となっています。しかし、多岐にわたる業務にデジタル技術を適用し効果を生み出していくためには、各社各様のストーリーがあり、一筋縄ではいかない現実が存在します。
本連載では、実際の現場で見聞きしたエピソードに基づき、DX推進の指針(DX Compass)となるような視点を解説していきます。第2回では「MRP(資材所要量計画)」のポイントについてお伝えしましたが、第3回となる今回は、製造業の3大指標であるQCD(品質、コスト、納期)の一つ、Delivery(納期)の理想と現実について考えます。
筆者が運営するユーザー会(mcframe Users Group: MCUG)などで、ユーザーの皆さんとお話をしていると「納期順守率」が話題に上ることがあります。一般的なERP(Enterprise Resource Planning)やSCM(Supply Chain Management)のパッケージシステムであれば、発注や受注の納期順守率を算出する機能は標準で備わっており、簡単に算出できるはずです。しかし、いざ現場の方々と議論を始めると、その基準は各社各様で、単純に比較できない形となっています。
例えば、以下のようなポイントで基準が分かれるケースが多く見られます。
現場からは「一律の納期順守率ではなく、無理な発注に対する達成度を表す『納期協力率』こそが重要だ」という意見も出てきます。さらに、上層部から「納期順守率を向上させよ」と指示された現場が、(数値の見栄えを良くするためか、あるいは本当にそれだけの期間が必要になったのかはさておき)取引先の基準リードタイムを長く設定し直したというエピソードを聞いたこともあります。
とりわけ組み立て系製造業では、部材が一つでも欠ければ製品は完成しません。製品の完成が遅れれば、受注納期は遅延してしまいます。実質100%の順守が求められるからこそ、現場は在庫を抱えたり、納期をあらかじめ前倒しして設定したりして、実際の使用日に間に合わせようと粘り強く調整を続けています。
購買部門で話をすると、当然のように「発注納期順守率向上」の取り組みが話題になります。実際、納期前倒しが必要な局面では、購買担当者は大変な労力をかけて取引先と納期調整を行います。しかし「あとわずかだが1種類の部材が足りない」ため、結果的に顧客への受注納期を達成できないケースも発生します。そのため、納期を順守するために、不足する可能性がある部材については在庫を抱えざるを得ず、在庫量と納期のぎりぎりの調整が必要になります。
特に、得意先からの納期要求が厳しい場合、購買部門は納期前倒しなどの対応に多大な努力をしています。このようなケースでは、在庫増加も課題になっていることがあります。ある製造業では、通常より在庫が増えているという課題を受け、納期の問題も含めて解決するため、業務プロセスの変革に切り込みました。ERPデータのアセスメントツールなどに出会い、活用してみようと思ったのがきっかけだそうです。
ここでは「在庫が多い」という課題からスタートしましたが、アセスメントツールでデータを分析してみると、過半数の発注に対して注文書発行後に納期の前倒し変更がされていることが分かりました。
また、取引先の協力も円滑で、発注納期順守率も比較的高く、現場はできる限りの対応ができている状況でした。しかし、それにもかかわらず、受注納期の順守率はあまり高くありませんでした。
部材がたった1種類でも欠ければ受注納期は遅延します。そのため、いくら取引先に協力してもらって前倒しで納入された部材があっても、それらの大半が「在庫の山」と化してしまっていたのです。つまり、個々の作業はしっかり行われているものの、全体最適の視点で、部材をそろえる条件やタイミングを管理できていないために、せっかくの現場の努力が無駄になってしまっていたのです。
アセスメントツールにより、データでこれらの問題がしっかりと示されたことで、購買部門が部材をどんなに苦労して集めてもタイミングを合わせられなければ、受注納期を順守できないという、いわば“当たり前のこと”をあらためて認識し、業務プロセスの改善を進めたといいます。
ここでは、あらためて数値で見ることにより、精神論ではない現実的な改善の議論が進みました。想定されていた通りの結果であっても、データの裏付けがある場合とない場合で、その後の動きが変わる好例です。
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