実際の現場でのエピソードに基づき「DX推進の指針(DX Compass)」となるような視点を解説する本連載。第2回となる今回は「自社では使えない」という声をよく耳にする「MRP(資材所要量計画)」のポイントを取り上げます。
製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは避けては通れない課題です。しかし、そこには各社各様のストーリーがあり、一筋縄ではいかない現実が存在します。
本連載では、実際の現場で見聞きしたエピソードに基づき、DX推進の指針(DX Compass)となるような視点を解説していきます。第2回となる今回は、ERP/SCM(生産管理システム)の要でありながら「自社では使えない」という声をよく耳にするMRP(資材所要量計画)が使えるようになるためのポイントを取り上げます。
製造業のDX推進において、生産管理システムの要となるのが「MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)」です。生産計画から逆算し「必要な資材を、必要な時に、必要なだけ」用意するこの機能は、本来は業務効率化の強力な武器になるはずです。
しかし、現場で話を聞くと「MRPはうちの業務には合わない」「結局、人が判断しないと使えない」という声を耳にする機会が少なからずあります。特にプロセス系製造業ではその傾向は顕著です。
一方で、うまく活用している企業では、プロセス系であってもMRP利用率を5倍以上の90%まで劇的に向上させ、成果を生み出した例なども存在します。例えば、「運用も見直し、MRPからの発注率は18.6%から96.1%に拡大しました。原価管理も刷新してコスト削減活動をさらに前進させることができています」(Webサイト参照)ということが、弊社が支援した企業でもあります。
なぜ、これほどの差が生まれるのでしょうか。そこには、単なるシステムの問題ではない「運用のわな」が隠されています。
MRP活用に向けた運用のポイントの話に踏み込む前に、組立系製造業の状況も見ておきましょう。
組立系製造業ではMRPを利用できているところが多くあります。必要な資材は数えられるものが多いため、プロセス系製造業に比べると資材管理がやりやすいということが要因だと考えられます。しかし、1つでも部品が不足したら製品が作れなくなり、その運用は厳格さが要求されます。
MRP計算は、BOM(構成表:部品表やレシピ)を中心としたマスターデータ、在庫データそして製品の生産計画データによって行われます。そのため、これらのデータが正しくシステムに登録されている必要があります。製造や在庫受払の実績がタイムリーに漏れなく登録できるということが第一歩となります。さらに、MRPを活用している企業はこれらに加えて、マスターデータと生産計画データの管理を厳密に行うことが求められます。
ただし、このシステムとデータの関係性が厳密に構築され、運用が適切な形で行われれば、イレギュラーな問題は生じなくなりますので、作業そのものは大幅に簡略化され、確認などの付帯作業を一気に削減することができます。
MRP活用で成果を生み出しているある担当者は「結局、人が判断しないと使えない」などのネガティブな声に対し、「マスターデータと生産計画データが正しく、業務のプロセスなどについても承認されているのであれば、それに基づくMRP計算の結果については何を疑う必要があるのか」と首をひねっていました。
つまり、MRPをうまく活用できるかどうかは、製造業の生産方式ではなく、こうしたシステムと運用プロセスの問題が大きいということになります。
もう1つMRP活用が進まない要因として「人ができることをそのままシステムにやらせようとすること」があると考えています。
例えば、ある企業の生産管理システム活用のアセスメントのためにシステムデータの分析を行った際のことですが、その企業では月間2000件の発注を、10人以上の担当者が行っていました。月間2000件ということは営業日20日換算で1日100件程度で、1人当たりで発注作業を行うのは10件程度です。このくらいの数だとシステムに頼らなくても人力で行えるレベルです。これではシステムの処理能力が無駄になっています。
上手に活用しているある組立系製造業では、毎日2000件を超える発注を行っており、担当者が10人いても1人当たり1日200件程度の発注作業が必要になります。これでは人手で行うには限界があるために、システムの力に頼らざるを得ず、システムに合わせた業務プロセスへの切り替えが進みます。実際にはこの企業では、注文作業自体をEDI(Electronic Data Interchange)により自動化してこれらの作業を一気に軽減し、担当者は変動による発注調整や契約条件の改善、新規取引先の開拓(開発購買)を主な業務としているそうです。
つまり、MRPを活用して成果を生み出したいのであれば、従来の業務プロセスを見直し、システム化の力を最大化し、それによって従来業務の抜本的な効率化を実現することが必要になります。「人ができること」をそのままデジタルに置き換えるだけであれば、業務効率が上がらないまま、システム構築費用はかかるために、総合的に見た場合、企業として経済的メリットを生み出せないことになります。
これらの点を考えた場合、MRPの利用率を向上させるためには「職務と権限の見直し」がまず必要だと考えます。例えば、以下のように運用が変わったとします。
これだけでもMRPの有効性を高めることができます。MRPは、マスターデータと在庫データ、そして生産計画データを元に計算が行われます。その内マスターデータと在庫データは現時点の情報で、良しあしを客観的に判断できます。しかし、生産計画データは「未来の情報」であり、不確実性を伴います。その不確実性を理解している生産計画部門が発注数の責任を持つことで「自らが立案した計画に基づく発注数は妥当である」という納得感が生まれ、MRPの結果をそのまま採用しやすくなります。
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