なぜ現場でAIを使いこなせるのか、パナソニック インダストリー山口拠点の10年モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

製造現場でのAI活用への期待は高まっているが、実際に効果を得るためにはデータの整備や知見の形式知化が必要だ。その作業負荷が重くなるためになかなかAI活用に至らないケースも多い。その中で、工場の現場状況のデータ化を地道に進め、今では複数のAIエージェントを組み合わせた作業支援などを実現しているのが、パナソニック インダストリーの山口拠点だ。その取り組みを紹介する。

» 2026年09月15日 06時50分 公開
[三島一孝MONOist]

 AI(人工知能)によりあらゆる業務が大きく変わろうとする中、学習のためのデータの取得や整備、暗黙知の標準化などが難しいために、活用が大きく広がっていないのが、製造現場だとされている。

 その中で、10年以上をかけて全ての生産設備のデータを見える化し、暗黙知を構造化するフレームワークを構築することで、製造現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現し、今それを土台にAI活用を加速させているのが、パナソニック インダストリーの山口拠点(山口県山口市)だ。

自動車や情報通信インフラ向けで躍進するコンデンサー工場

 パナソニック インダストリー山口拠点は、1969年の設立以来、アルミ電解コンデンサーを一貫して生産し続けてきた工場だ。コンデンサーは現在、自動車(EV)やAI向け情報通信インフラなどで大きく成長しており、特に高信頼で大電流のコンデンサーニーズが高まっている。その中で、パナソニック インダストリーでは、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーが幅広い分野で採用され、大きく伸長しているという。山口拠点でもこれらの増産に合わせ、リソースを増やさずに生産量の増加に対応するため、生産性を高めることが求められている。

photo パナソニック インダストリー山口拠点の概要[クリックで拡大] 出所:パナソニック インダストリー

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの生産工程は、基材を購入し、それをコンデンサー製品の幅に応じて切断(スリッタ)し、スリット箔とリード線を接続(カシメ)する。そのカシメ箔と電解紙を巻き取り(巻き取り)、封止用ゴムを挿入(ゴム挿入)し、巻き取り素子内にポリマー層を形成(ポリマー形成)する。その後、アルミケースに入れて電解液を注入し、重合素子を挿入するという流れで生産されている。

photo パナソニック インダストリーのコンデンサー製品[クリックで拡大] 出所:パナソニック インダストリー
photo パナソニック インダストリー デバイスソリューション事業部 オペレーション変革センター センター長の高橋成太氏

 コンデンサー製品は、顧客ごとに仕様が異なるため、品番点数は1万〜2万になり、工程間の5000〜6000ルートを通って製品になる。各工程の自動化はされているが、工程間の搬送や部材の投入、保守などは、作業員が行う必要があり、最適なタイミングでこれらの作業を行うことがラインの生産性を左右する。

 パナソニック インダストリー デバイスソリューション事業部 オペレーション変革センター センター長の高橋成太氏は「作業員のオペレーション判断で生産性が左右される状況だったが、その判断は属人化され暗黙知となっていた。これらを組織全体の資産にすることを考えた」と当時を振り返る。

photo 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの生産工程[クリックで拡大] 出所:パナソニック インダストリー

工場内の全ての生産設備からデータを取得し見える化

 オペレーションの暗黙知を形式知化していくためには、まず工場で何が起こっているのかをデータで把握する必要がある。しかし、取り組みを開始した約10年前には、2010年以前の古い設備の占有率が50%となっており、そのままデータを取得できない状況だった。それをデータ取得できるように、データ取得可能な新設備へ入れ替えるとともに、既存設備にはデータ取得用のPLC(Programmable Logic Controller)を順次設置し、最終的に600以上の全ての生産設備のデータを見える化した。

photo 全ての生産設備の見える化を推進[クリックで拡大] 出所:パナソニック インダストリー

 全ての設備からデータを取得できるようにしたことで生産履歴の把握やロットトレースが可能である他、「不良率の推移」「設備別不良率」「ロット別不良明細」「サイズ別不良推移」「項目別不良率」など、さまざまな項目が見える化できるようになったという。

 高橋氏は「全てのデータが取得できるようになったことで、仮想空間上で設備を表現できるようになった。そこでモノの動きを完全に再現できるようになった。一方で人の動きは暗黙知として無意識な動作がある中、それを形式知化できていなかった。人とデータをどう融合させ、オペレーションをどう変えていくのかがデータが見える化した後の大きなテーマとなった」と語る。

photo データの見える化の事例[クリックで拡大] 出所:パナソニック インダストリー
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