「効率化」に明るい未来はない、DX時代に目指すべきシステムコンセプトモノづくり革新のためのPLMと原価企画(1)(1/2 ページ)

本連載では“品質”と“コスト”を両立したモノづくりを実現するためのDX戦略などを解説する。第1回目の今回は、DXを通じて実現すべきシステムコンセプトの在り方を解説する。システムは「効率化」と「高度化」のどちらを目指すべきなのか。

» 2021年04月06日 14時00分 公開

 「設計段階でコストの約80%が決まる」。この言葉が示すように、設計段階の意思決定は事業にとって最重要課題といえる。この意思決定のフェーズは、個別受注企業であれば引き合いの受注可否判断に、企画量産企業であれば開発開始の可否判断に相当する。

 ここでの意思決定により将来の利益ポテンシャルは決まり、無謀な計画であれば品質低下を招く。しかし、「品質」と「コスト」のバランスを判断する重要局面にもかかわらず、多くの企業では実力データ(実際原価など)が見えないまま、属人的な判断がされているのだ。

 根拠情報も残っておらず、振り返りもできない状況。冷静に考えれば、非常に恐ろしい。製品の“競争力”と“もうけ”を両立するには、当たり前だがQCDの実力データを見える化し、上流の意思決定に生かしていくことが必要である。そのためにも、近年話題となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)、デジタルツイン、AI(人工知能)などの取り組みは避けて通れない。

 だが、経済産業省がDXレポートで述べた「2025年の崖」まで残り5年となっても、国内製造業のシステム刷新は進んでいるとは言い難い状況である。2021〜2025年は「システム刷新集中期間」と位置付けられているにもかかわらずだ。

 さて、ここで1つポイントを整理しよう。「DXは今までのIT化と何が違うのか」ということだ。経産省のレポートでは、DXを以下のように定義している。

「破壊的な変化に対応しつつ、第3のプラットフォーム(クラウド、ビッグデータなど)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して(中略)価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」(出典:DXレポート-ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開-)

 しかしこれでは、今までのIT化と違う大規模な取り組みが必要だとは分かるが、具体的な違いがよく分からない。「DX」という冠を付けておけば、どんな取り組みも何となく今っぽく、先進的に聞こえてしまうのもこうした言葉の曖昧さによるところもあるだろう。

経済産業省の定義したDXと疑問[クリックして拡大]

 本連載では、冒頭で触れた設計段階での意思決定改善をはじめ、“競争力”と“もうけ”を両立した製品を作るために、システムをどのように刷新すべきかを紹介する。

 キーワードは「設計改革」「PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)」「原価企画」「意思決定」などだ。DX、デジタルツイン推進の旗を掲げて、単なるBOM(部品表)導入に終わらせないために。また設計業務改革と言いながら、単なる検索性の良い図面管理システム導入に終わらせないためには、「本質的なシステムコンセプト」をしっかり考えなければならない。

「効率化」に対する考えを見直すべき理由

 「部門連携の強化」「激しい変化への対応」「価値創造できる業務やシステムの構築」。これらは、DXが叫ばれる前から言われていたことで、実現に向けてどの企業も取り組みを進めてきた。しかし、実際には、目標と程遠いシステムになってしまうことも珍しくなかった。これではDXと”冠”を変えたシステム改革を推進したところで、また結果は同じになる。何が原因なのか。

 まず、見直すべきは「効率化」に対する考え方だ。働き方改革が各所で推進される世の中では言いにくいことだが、「効率化を求めたら、DXはできない」と筆者は考えている。今までのIT化は、どうしても「作業性を高める」「入力工数を減らす」「ボタン3回クリックを、1クリックで処理させる」など、工数削減や操作性向上にフォーカスを当ててきた。それらは、システム導入を進める上で現場の合意を取りやすく、効果も分かりやすいが、DXには程遠い仕組みとなってしまうのだ。これからの時代で目指すべきは、「部門間のつながり(データのつながり)」と「意思決定スピードの向上」の2つである。そのためには、効率化は弊害になってしまうのだ。

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