多くの製造現場ではスキルマップを作成し、技術者のスキルを見える化、管理、運用する体制を整えている。品質マネジメントの国際規格であるISOの監査などで必要になるためだ。一方で現在、技術者のスキル取得状況を可視化することで、経営戦略の実現や品質不正の防止に役立てようとする動きもあるという。デジタル上でのスキル管理サービスを展開するSkillnote 代表取締役に、国内製造業におけるスキルマネジメントの現状や課題について話を聞いた。
多くの製造現場ではスキルマップを作成し、技術者のスキルを見える化、管理、運用する体制を整えている。品質マネジメントの国際規格であるISO 9001などの監査で必要になるため、正式な品質文書として記録を残しておく必要があるからだ。
ただ現在、こうした「監査のため」という消極的な理由ではなく、「技術者のスキル取得状況を可視化することで、経営戦略の実現や品質不正の防止に役立てようとする積極的な動きもある」と、Skillnote 代表取締役の山川隆史氏は指摘する。同社は、スキル管理や人材育成を一元管理、可視化するデジタルサービス「SKILL NOTE」を展開する企業だ。山川氏に、国内製造業におけるスキルマネジメントの現状や課題について話を聞いた。
MONOist 国内製造業におけるスキル管理の現状をどのように見ていますか。
山川隆史氏(以下、山川氏) 多くの製造現場ではスキルマップを作成し、作業者とスキルの星取表を基に、教育訓練計画を立案している。教育課程を修了するとスキルマップにその履歴が記録される。それらを品質管理文書として印刷し、作成者、承認者の名前を記録。担当者が文書にはんこを押して、一定期間保管する。これが一般的なスキル管理業務の流れだ。
だが、大部分の企業はスキルマップの管理、運用を紙やExcelベースでおこなっている。スキルの数は1つの工程で数百種類、場合によっては8万種類以上にも及ぶ。さらにスキルマップ作成は事業所や部署ごとに行う。工程が変わればスキルも変わるので、合計すれば1社当たりかなりの枚数になるだろう。これをアナログな方式で正確に管理して可視化するのは大変で、非効率な業務となる。
アナログなスキル管理は、若手社員の離職原因にもなり得る。また現場だけでなく、人事部門の立場から見ても問題がある。戦略人事に基づく人員の最適配置が行いにくいからだ。昨今、技術革新のスピードが加速しており、それに伴い技術者のリスキリングが往々にして求められている。だがそもそも、現場とスキル情報をうまく共有できておらず、現場との距離感を覚えるという人事部門も少なくない。これでは戦略人事の実践は難しい。
MONOist アナログなスキル管理が若手の離職につながる、というのはどういうことですか。
山川氏 人材のモチベーション維持が厳しくなるからだ。製造業においても人材の流動化が進む中、「この企業に在籍するとどのように成長できるのか」「どういうキャリアプランが描けるのか」を社員にしっかりと示さなければならない。エンジニアとして一人前になるのに「10年、先輩の背中を追え」と言うだけでは不十分だ。職種ごとに求められるスキルを体系化し、スキル取得までのロードマップを明示する。モチベーション維持にはこれらが必要だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.