半導体不足などのニュースで、半導体の流通に携わる「半導体商社」にスポットライトが当たる機会はあまりない。半導体の流通業務に携わる商社の立場から見て、昨今の半導体不足はどのように見えていたのか。そもそも半導体商社はどのような仕事をしているのか。コアスタッフ代表取締役に話を聞いた。
コロナ禍以来、「半導体」というワードがいつになく注目を集めるようになった。MONOistでも半導体不足に起因するサプライチェーンの混乱や、半導体市場の将来予測を報じた記事が多く読まれている。現在では多くの業界で半導体不足の影響が和らぎ始めているが、私たちの社会に半導体製品がどれほど深くかかわっているかを否応なく意識させた。
ところで、こうしたニュースで主役となるのは大半が半導体メーカーや半導体を使用するメーカーなどで、半導体の流通に携わる「半導体商社」にスポットライトが当たる機会はあまりないだろう。半導体商社の1社であるコアスタッフの代表取締役を務める戸澤正紀氏も、「半導体商社という存在をなかなか知ってもらう機会がない」と嘆く。
しかし当然だが、半導体商社も半導体サプライチェーンにおいて大事な役割を担っている。半導体の流通業務に携わる商社の立場から見て、昨今の半導体不足はどのように見えていたのか。また、そもそも半導体商社はどのような仕事をしているのだろうか。戸澤氏に話を聞いた。
――半導体商社での仕事には主にどのようなものがあるのでしょうか。
戸澤正紀氏(以下、戸澤氏) 基本的には国内外の半導体メーカーと販売代理店契約を締結して活動する。半導体メーカーが商社に期待する役割の1つが「デザイン・イン」だ。半導体を購入する顧客企業の製品設計者に、売り込みたい半導体デザインをプロモーションして、採用してもらうプロセスになる。半導体がデザイン・インされてから、実際の量産化までの期間は3年かかることも珍しくない。
デザイン・インと並び半導体商社にとって重要になるのが「デザイン・ウィン」だ。初めて量産オーダーをもらったタイミングのことで、デザイン・インからデザイン・ウィンまでのプロセスを管理することも半導体商社の役割となる。ちなみに、デザイン・インした功労者がデザイン・ウィンまでに担当が変わってしまうことは、半導体商社営業ではよくある話だ。
ただ、半導体を組み込んだ製品をいつ誰が開発し、誰が製品の選定をするのが分かっていなければ売り込みもうまくいかない。つまり、売り先と売るタイミングを適切に把握することがことが大事だ。もちろん商社から顧客への技術的サポートも大切で、顧客がどのような半導体製品を求めているのかを見極める必要がある。
ここまでが半導体の製品採用までの話で、その後は、正確にはスペックイン時に行うのだが、顧客との価格交渉に入る。当然、顧客は自社製品への採用可否を交渉材料にして、購入価格をなるべく抑えたがる。
だが、ここで顧客の話が本当かを見極める必要がある。例えば、顧客は「他にも採用を検討している半導体製品がある」といった具合で揺さぶりをかけてくるが、実はその選択肢という製品が無理やり引き合いに出したにすぎず、明らかにロースペックだというパターンもよくある。
――難しい駆け引きですね。真偽を見極める上では何が大事になるでしょうか。
戸澤氏 カギとなるのは、組み込み先の最終製品にその半導体製品が使えるのか、使えないのかを見る力だろう。バイヤーの提示した候補となる半導体のスペックが、ちょっと低いが使えるレベルなのか、最終製品が求めるスペックには到底足りないレベルなのか。
もちろん後者であれば検討の余地はないのだが、活用の仕方によっては使えるというケースもある。そうなるとバイヤーとの真剣な交渉に入る。この場合は、いい交渉材料を持ってきたバイヤーの成果ということになるだろう。
価格がフィックスして量産オーダーをもらえたら、次段階に移る。量産は1回では終わらない。製品の売れ行きの調子が良ければ定期的に生産する。そうなると、半導体のリードタイムと顧客の注文タイミング、そして顧客が実際に半導体を使用するタイミングの間ですり合わせが必要になってくる。半導体は通常時であれば最低でも3カ月程度は納品までにかかる。だが、仮に顧客が2カ月後に欲しい半導体をオーダーした場合、1カ月絶対にショートしてしまう。ここで誰かが在庫を持つ必要があるが、大体、半導体商社がその役割を担う。
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