企業活動において、いまやWebは必要不可欠な存在である。Webの可能性に早くから注目していた企業の1つが由紀精密だ。現在は航空宇宙関連機器などの金属精密加工事業などを展開してJAXAなどとも取引するが、元は“経営危機”に陥ったこともある町工場だった。変革の裏側には同社の「Web戦略」の存在がある。
公式サイトを通じた自社ブランドの認知度拡大や新規顧客の獲得、“バズ”を狙った各種SNSでの新製品発表――。こうしたWeb関連の取り組みは、いまや多くの企業が大なり小なり取り入れている。企業が広報、マーケティング活動を行う上で、Webは必要不可欠な存在となった。
製造業においても、Webサイトでの製品販売やSNSなどを活用した情報発信などに取り組む企業は多い。Webは規模の限られた既存の市場から、国内、場合によっては世界全体にまで市場を拡大し得る。また、以前MONOistでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で苦境に陥った町工場が、Webを活用することで復活の糸口を見つけた事例を紹介したが、このようにWebは思いがけない“チャンス”を企業にもたらすこともある。
こうしたWebの可能性に早くから注目して、事業成長の推進力として生かしてきた企業が由紀精密である。同社は、町工場で“経営危機”に陥ったこともあったが、現在は航空宇宙関連機器などの金属精密加工事業を展開する企業として成長を続けている。取引先にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)や宇宙関連スタートアップであるアクセルスペース、アストロスケールなどが名を連ねる。
こうした変化のきっかけとなったのが、2006年に同社 代表取締役社長に就任した大坪正人氏(現職は代表取締役)による改革に向けた取り組みである。改革の過程でWebが大きく役立ったという大坪氏に、同社の“Web戦略”について話を聞いた。
MONOist 由紀精密では現在、Web関連でどのような施策を行っていますか。
大坪正人氏(以下、大坪氏) 当社では現在、公式サイトの他、ソリューションサイト「切削加工.net」やTwitter、Facebook、InstagramなどのSNSを運営している。これらに加えて、旋盤やアナログレコードプレーヤーなど制作した製品に合わせた専用サイトや、B2C製品を販売する「YUKI オンラインストア」を展開している。
公式サイトは何年かに1回、通算で5回程度はフルモデルチェンジをしている。初代は1995年前後、私が大学生の時に講義課題の一環で作成したものを使った。その頃は大企業のWebサイト制作を学生が請け負うことも珍しくなかった時代だった。作成したかいはあったようで、当時代表だった私の父親が言うには、Web経由で結構な数の依頼が舞い込んでいたようだ。
今でも公式サイトは顧客獲得において非常に重要な役割を果たしている。2006年に私が由紀精密に入社して以来、新規顧客の約7〜8割はWebサイトからの流入だった。もちろん、この数字は最終的にWebから問い合わせてくれた企業数ということであり、展示会に出展した際に社名やロゴを目にして、気になった人がWebで検索してくれたというケースも含む。メディアの記事で社名を見かけてWeb検索したという顧客もいる。
時には海外から問い合わせが寄せられる。さすがに全く当社を知らなかった海外企業がWebサイトを見ていきなり相談しに来る、というケースはないが、過去に当社を報じた海外記事などをきっかけに問い合わせを受けたことがあった。例えば、スイスのメディアに当社が時計部品を作ったことが掲載されたが、その関連で連絡をもらった経験がある。
ただ、由紀精密の公式サイトは当社事業を概観的に把握してもらうことに主眼を置いており、個別の技術情報を詳しく知りたい人にとっては不足感がある。そこで立ち上げたのが切削加工.netで、同サイト経由で問い合わせを増やそうとした。現在は順位を落としたが、一時期は「切削加工」でGoogle検索すると1位か2位に表示されるほど、その分野では注目度の高いサイトだった。
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