MONOist 由紀精密の事業成長において、Webの役割をどのように位置付けていますか。
大坪氏 Webは広報活動において一番有効で主軸となるツールだ。Webを適切に活用できれば、いままでと全く異なる規模のマーケットを相手にできるようになる。当然それは物理的に遠い地域の、世界中の同業者と戦うことも意味する。その中で生き残るには、単にWebサイトを構築するのではなく、自社のアイデンティティーをしっかりと表現して目立たせる努力が必要だ。
MONOist アイデンティティーを表現するとはどのような意味でしょうか。
大坪氏 単純な話で、ブランディングのことだ。当社の場合は航空宇宙業界の仕事を受託しており、人工衛星の部品などを設計、製造していること、他社がまねできない加工も引き受けられる点が強みである。それを社外にしっかりと訴求するよう意識している。
ただ、受託加工業者は基本的に自社製品を持たないため、自社のアイデンティティーを伝えるのはやや難しい。そこでこだわったのが企業ロゴのデザインだ。一目見れば、由紀精密の加工実績やレコードプレイヤーなどの当社製品ラインアップ、「ネジ屋から航空宇宙業界に進出した」という企業ストーリーが思い浮かぶ。そんなロゴを目指した。
また、Web空間での自社の評判や立ち位置についても可能な限り管理したいと考えており、広報が取材記事など、世の中に発信する情報のトーン&マナーを広報がチェックすることで統一化を図っている。世の中に出回っている情報と当社が発信したいイメージの著しい乖離(かいり)を防ぐためだ。
MONOist 製造業がWeb戦略を実行する上で一番重要な点は何でしょうか。
大坪氏 企業としての統一感あるアイデンティティーをメッセージとして発信することでブランディングを行うことが大切だ。
この関連で当社も少し悩んだ経験がある。コマづくりで精密切削の技量などを競う「全日本製造業コマ大戦(以下、コマ大戦)」に参加、優勝して有名になった後に「由紀精密=コマづくり」という企業イメージが強まってしまった。
もちろんコマ大戦は当社の技術力を効果的にアピールするいい機会だったが、当時は航空部品などの案件を積極的に増やしていきたかった時期だった。「コマづくり企業」というイメージを少し方向修正した方が良いと判断して、コマ関連の話題でのメディア露出を控えた。他にも、少し風変わりなモノづくり企画に携わった際には社名を伏せるなどで対応している。細目に自社イメージを管理するという意識が必要だ。
また、とにかく自社製品を売りたい時には、SNSやYouTubeなどで“バズらせる”ことを目指すのも手だろう。ただ、モノづくり業界においても、現在は各プラットフォームでインフルエンサー的なポジションの人が生まれてきている。そうした環境下で悪目立ちをすることなく発信力を強めるには、「自社で何をやりたいか」という課題意識を明確にして取り組むことが必要だと思う。
MONOist 今後、Web空間でどのような取り組みを行う計画ですか。
大坪氏 高品質のモノづくりのコントロールも任せられる、洗練された企業というイメージを前面に打ち出していく。「何でも屋」としてではなく、高精度性が要求される部品に関しては「由紀精密に任せたい」と思ってもらえる企業になりたい。
Googleなどの検索エンジンのアルゴリズムは日々進化しており、良質なコンテンツを持つサイトが検索上位に表示されるようになりつつある。脈々と流れる当社のアイデンティティーは死守しつつ、世の中の流れに合わせて表出方法を変えていく。
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