PLMとは何か? ~その意義と必要性~AIとデータ基盤で実現する製造業変革論(1)(1/2 ページ)

本連載では、製造業の競争力の維持/強化に欠かせないPLMに焦点を当て、データ活用の課題を整理しながら、コンセプトとしてのPLM実現に向けたアプローチを解説する。第1回は「PLMとは何か?」をテーマに、その意義と必要性を考える。

» 2025年04月24日 09時00分 公開

本連載について:

生成AI(人工知能)の台頭と技術革新の加速により、製造業の競争軸として「いかにデータを活用し、付加価値を生み出せるか」の重要性が高まっています。しかし、依然として非構造化データや紙ベースの情報が多く、異なる部門間でのデータ共有や業務の変革を促すレベルでの活用は困難な状況です。

さらに、地政学リスク、サプライチェーンの不安定化、環境規制の強化など、グローバル経済の不確実性が高まり、製造業に求められる柔軟性と俊敏性は、かつてないほど重要になっています。競争力を維持/強化するためには、「PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)」の実現が不可欠です。本連載では、データ活用の課題を整理し、PLM実現に向けたアプローチを探ります。

1.PLMの基本概念と目的

 皆さん、はじめまして。キャディの八木雅広と申します。当社は、エンジニアリングチェーンとサプライチェーン双方の全体最適の実現を目指す「製造業AIデータプラットフォームCADDi」というプロダクトを提供しています。自動車業界、重工業、半導体製造装置メーカーなど多種多様なお客さまと日々課題解決に向けて取り組んでいます。

 当社のお客さまを含む多くの企業から、社内に存在するはずのデータや知見を十分に生かし切れていないことへの危機感の声を頻繁に伺います。ベテランの退職による知見の喪失や、働き方の変化に伴う部門間の連携不足などにより、従来よりも活用できる知見のレベルがむしろ下がってしまっているという声もあります。その背景には知見がデータ化されていない、ないしはデータの在りかに関する知見が属人化しているという実態があります。

 当社では、2024年12月に「製造業の知見継承調査」と称し、製造業に従事する人たちに向けて「2025年の崖」に対する認識やDX(デジタルトランスフォーメーション)化の現状について調査を実施しました(関連リンク:【キャディ 製造業の知見継承調査】 「2025年の崖」の解決策、「属人化からの脱却」が1位)。

「2025年の崖」の解決策(最も取り入れたいもの) 図1 「2025年の崖」の解決策(最も取り入れたいもの)「キャディ 製造業の知見継承調査」より[クリックで拡大] 出所:キャディ
ベテラン社員の知見で業務上重要だと感じるもの 図2 ベテラン社員の知見で業務上重要だと感じるもの(1~3位合計)「キャディ 製造業の知見継承調査」より[クリックで拡大] 出所:キャディ

 調査の結果、取り入れたい解決策として「属人化している情報の『見える化』」と回答した方が30%以上に上ります。その中でも、ベテラン社員の知見で重要だと感じるものとして「品質を保つための知見」「過去の不良品・製造トラブルの内容と対応方法」「生産・納品にかかる費用や時間の管理に関わる知見」が上位3件として挙げられています。こうした長きにわたる後工程、そして市場の情報を設計や企画においても活用していくことが競争力を高める上で非常に重要になっています。

 「PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)」とは、製品の企画、設計から製造、保守、廃棄に至るまでの情報を一元管理し、データを活用することで業務の効率化や品質向上を図るための概念です。「PDM(Product Data Management:製品データ管理)」と混同されがちですが、PDMが設計データの管理に特化しているのに対し、PLMは業務プロセス全体を対象とし、データの統合と活用を目的としています。

 PLMの目的は単なるデータ管理にとどまりません。設計、製造、品質管理、サプライチェーン管理など、多岐にわたる業務プロセスを横断してデータを一元的に管理し、業務の最適化を図ることが求められます。つまり、PLMとはシステムのみを指すものではなく、“製造業が目指すべき一つのコンセプト”だといえます。

2.PLMに関する誤解

 PLMは単なるITシステムの導入ではなく、業務プロセスの変革とデータ活用を伴うものです。例えば、PDMが設計データの管理を目的とするのに対し、PLMは製品ライフサイクル全体を対象とし、より広範なデータ統合と業務改善までをも含みます。

 しかし、ソフトウェアとしてのPLMを導入すれば自動的にデータが整理され、業務が効率化されるという誤解が存在しているのが実情です。また、「システムを導入すればデータが整う」という誤解も根強いですが、実際にはデータ構造の最適化や業務フローの見直しが不可欠であり、適切な運用が伴わなければ期待する効果は得られません。また、データの蓄積もさることながら各実務部門における活用の定着も重要です。

 従って、Product Lifecycle Managementの実現とは、文字通りプロダクトライフサイクルに呼応する各部門、すなわち“製造業の全部門が一丸となって取り組む全社改革”ともいえます。

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