近年、単一のデータではなく、関連データを統合的に管理し、活用することの重要性が高まっています。この背景にはAI技術、とりわけLLM(大規模言語モデル)の目覚ましい発展とその将来性への期待があります。AIを活用することで、従来は発見できなかった製造プロセスの課題や改善点を可視化し、因果関係を特定することが可能になりました。例えば、AIによるデータ分析を活用すれば、製造工程の異常検知や品質管理の最適化が可能になります。しかし、製造業でこうした事例はまだ多くありません。そこには、現状の製造業におけるデータのため方が関係しています。
製造業におけるシステムは工程/部門ごとや、工場ごとに異なるのが当たり前です。その結果、各プロセスは連続的に進んでいるにもかかわらず、その過程で発生するデータは工程/部門を境界線として断続的な記録がなされているのが実情です。この事実が、AIが製造業データを扱う上での大きな足かせの一つとなっています。
AIの性能は、アルゴリズムやモデル構造だけで決まるわけではありません。むしろ、どんなデータを与えるかが成果の“上限”を決めるともいえます。これは「Garbage in, Garbage out」――つまり、質の低いデータを入れれば、どれだけ高度なモデルでも質の低い結果しか返せないという原則に通じます。実際、現場でAI導入がうまくいかないケースの多くは、モデルそのものではなく、データの設計、収集、整備の段階で問題を抱えています。言い換えれば、AI活用における真のボトルネックは“モデルの精度”ではなく、“データの質”なのです。
データの質にはさまざまな要素がありますが、殊更モノづくりにおけるAI活用で注視すべきなのが“データ同士の関係性”です。前工程でのある事象が後工程にどんな影響を及ぼすのかを知るには、単一データの集合では十分といえません。仮に関連性を持たない単一データがバラバラに大量に存在していたとしても、AIは因果関係を読み取れず、ないしは誤認をしてしまい、その実力の10分の1も発揮できずに終わるでしょう。
そうした課題意識から、工程ではなく製品の視点で横断的にデータを扱うというPLMのコンセプトとそれを実現するシステムの注目度が上がってきているのです。
PLMというコンセプトはシステムを一度導入すれば完結するものではなく、市場環境や技術革新、そして各社の戦略に合わせて継続的に進化させるべきものです。それを支えるシステムにおいても、データ構造や活用方法を継続的に進化させていく必要があり、そこを怠ると、5年後にはレガシーとなるものを作り上げてしまうことになるでしょう。
本連載では、従来のPLMの課題を整理し、コンセプトとしてのPLMを実現していくためのアプローチを掘り下げていきます。 (次回へ続く)
八木 雅広(やぎ まさひろ)
キャディ株式会社 エンタープライズ事業本部 カスタマーサクセス本部 本部長
クボタにて産業用ポンプの海外営業を担当し、インドとインドネシア市場において案件の開拓、契約、プロジェクトマネジメントに従事。その後、ボストンコンサルティンググループにて、製造業のお客さまとともに事業戦略の立案や構造改革を推進。モノづくり産業の一員として変革に携わりたいという思いから、2022年よりキャディに参画。
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