中国メーカーがグローバル市場で大きな存在感を示すようになって久しい。急激な発展の要因の1つに、同国が国家レベルで整備を進める「製造デジタルプラットフォーム」の存在が挙げられる。本連載では事例を交えながら、製造デジタルプラットフォームを巡る現状を解説していきたい。
中国製造業でのデジタルプラットフォームの広がりを日本と比較しつつ紹介していく本連載。今回は美的集団を取り上げて、DX(デジタルトランスフォーメーション)の具体的な取り組みと成果について、背景も含めて詳しく見ていこう。
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1968年に中国順徳市北角で設立された美的(Midea)集団は、家電生産販売事業を祖業とし、現在ではスマートホームや産業、建築、ロボティクスとオートメーションなど5つの主要な事業セグメントに加えて、革新的事業を展開している。2016年には東芝の白物家電部門の買収を経て、日本向け事業も開始した。
中国の産業界でもその存在感は大きい。2019年には中国が定めた「戦略的新興産業」※1の有力企業トップ100リストにおいて、美的集団は55位にランクインした。同年、中国企業連合会と中国企業家協会が発表した「中国製造業トップ500企業リスト」では23位に、翌2020年の「中国民営製造企業トップ500」では6位に入った。2024年7月には中国証券監督管理委員会が香港証券取引所への美的のIPO(株式上場)申請を承認しており、資金調達の加速が今後さらなる事業成長につながる可能性がある。
※1:中国が産業成長のため重視する領域で、「次世代ITやバイオ、ハイエンド設備製造、新素材、新エネルギー、スマート・新エネルギー車、省エネ・環境保護、デジタルクリエイティブ」(JETRO「中国の次期5カ年規画、科学技術の自立強化を国家発展戦略の柱に位置付け、国家経済安全保障も強化」より引用)などが含まれる。
美的集団はB2BとB2Cの両事業セグメントにおいて、DXを同時並行で進めてきた。これらは、十数年間にわたって継続されている。
美的集団のDXは主に4つの軸で構成されている。1つ目の軸はテクノロジーの利活用に関わるもので、その他の3つの軸は「デジタルインテリジェンスの推進」「ユーザーへの直接アクセスの実現」「グローバル展開の加速」を表している。注目したいのが「デジタルインテリジェンスの推進」「ユーザーへの直接的なアクセスの実現」の2つだ。これらは、同社におけるデジタル化の推進と密接に関連している。
「デジタルインテリジェンスの推進」とは、データドリブン型のインテリジェントな事業運営への転換を意味している。一方で、「ユーザーへの直接的なアクセスの実現」は、美的集団がB2C向け事業で直面する最大の課題解決を企図したものだといえるだろう。
筆者の見解だが、ユーザーへのアクセスに関する問題に直面しているのは美的集団だけではない。中国製造業が展開する消費者向けアプリケーションは、ユーザーへの理解がまだ完全ではなく、これが革新を妨げる根本的な問題として存在していると思われる。中国企業におけるデジタル化の最終段階と位置付けてよいだろうが、解決の道のりはまだまだ長い。
美的集団は2012年に始まった自社のDXプロセスをDX1.0/2.0/3.0/4.0と区分して表現している。現在は第4段階であるDX4.0に入った。変革の各段階は、その時点で同社が抱える特定課題の解決に対応した内容となっている。
以下の章ではこのナンバリングに沿って、美的集団のDXを段階を追って見ていこう。
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