2012年は美的集団がデジタル変革をスタートする元年となった。これ以前は美的集団の多くの子会社や部門の業務プロセス、管理方法、データ標準が統一されておらず、それらの間には多数の「情報孤島」が存在していた。
そこで美的集団は、当時の美的集団の会長だった方紅波氏が主導する形で、一貫性あるソフトウェアドリブンなビジネス、テクノロジーの在り方を実現することを目指した。ここで立ち上げられたのが、「One美的、One体系、One標準」を達成し、統一された管理システムとプロセスを確立することを目的とする「632プロジェクト」だ。
「632」とは、6つの基幹システム、3つの管理プラットフォーム、2つのテクノロジープラットフォームを意味する。全ての事業部門が同じシステム、管理プラットフォーム、テクノロジープラットフォームを使用することで、企業内の業務ツールやデータ、管理言語、ITシステムを統合した経営管理システムを構築しようとしたのだ。
ただ、632プロジェクトは単にITシステムの新規導入や置き換えを目指したわけではない。求められたのは、主に以下に挙げる3つの企業変革の達成である。
なお、632プロジェクトの実施に伴って、美的集団は組織構造を繰り返しアップグレードしており、全ての事業部門がニーズに応じて常に再編、分割、統合されている。
以上が、美的集団のDX1.0プロセスだ。2012年から2015年までの約3年で、同社は「632」システムを各事業部の導入を完成した。従来、200個以上存在したとみられるシステムは下記のように統合された。
2015年までに美的集団は統合情報システムに基づいて、新興インターネット技術とビッグデータを活用して、「632」システムの包括的なモビリティとインテリジェントな製造の変革を実現する「インターネット+」を一定期間試した。
2016年から2017年にかけて、「インターネット×テクノロジー」を掲げてDX2.0をスタートした。インテリジェントな製造やビッグデータ、モバイルプラットフォームの活用によって、クラウド化されたデジタル産業のチェーンを形成した。バリューチェーン全体で透明性の高い運営や、迅速で柔軟な対応を実現したのだ。
このころ、グループにC2M(Customer to Manufacturer:消費者の注文を受けてから商品を製造するビジネスモデル)を完全導入し、従来の「生産ベースの販売」から「販売ベースの生産」に転換し、消費者データに基づいた企業経営と生産推進を可能にした。美的集団は、このカスタマーセントリックの生産販売モデルを「T+3」モデルと呼んでいる。受注/生産/販売を一体化した「受注」主導のビジネスモデルである。
美的集団内で初めてT+3モデルを導入したのは、子会社のLittleSwanだ。「T+3」モデル導入を成功させるため、美的集団は4億8000万人のユーザーの内、1億人以上の会員、多数の店舗やオンラインデバイスなどを含む大量のデータを収集した。美的の目標は、ユーザーとのコミュニケーションのあらゆるチャネルを利用して、ユーザーが他人と話したりコミュニケーションを取ったりすることなく、スマートフォンなどの端末でワンクリックするだけで全ての問題を解決できるようにする。
T+3モデルは製品の発注から納品までのプロセスを発注、調達、材料準備、出荷の4つに分け、各段階で一定のサイクルを必要とする。「T0」は発注サイクル、「T1」は材料準備サイクル、「T2」は生産サイクル、「T3」は出荷サイクルをそれぞれ意味する。「T+3」モデルの最大の特徴は、大量の在庫をやみくもに積み上げなくて済むようにしたことだ。カスタマーセントリックに転換することで、需要/供給の予実管理の最適化が可能になった。
T+3モデルでは注文が入った後、工場で材料の準備、生産、出荷などを行う。美的集団は各サイクルを分解し、それぞれにかかる時間を明確に把握した上で、製造プロセスと製造設備、材料供給を最適な形で連携させることで、リードタイム短縮のための分析と改善を進めた。生産現場との連携によって出荷時間をさらに短縮することにも成功した。
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