中国メーカーがグローバル市場で大きな存在感を示すようになって久しい。急激な発展の要因の1つに、同国が国家レベルで整備を進める「製造デジタルプラットフォーム」の存在が挙げられる。本連載では事例を交えながら、製造デジタルプラットフォームを巡る現状を解説していきたい。
10年前、筆者は日本の製造業、モノづくりが持つ技術力に魅了されて、日本の大学でロボット工学を専攻し、勉強した。当時の中国では、ソニーや日立製作所、東芝などの日本ブランド製品がたとえ値段は高くとも大きな人気を博していた。
だが、それから10年後の現在、日本のブランド家電を中国の主要なショピングモールで見かける機会はとても少なくなった。中国市場において、スマートフォンや洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどエレクトロニクス産業の分野では、日本製品は中国製品にほぼ淘汰されたといっていい。
中国製品の台頭は中国国内に限った話ではない。エレクトロニクス製品のグローバル売上高を見ると、中国メーカーのブランドが上位の多くを占めている。それどころか、日本の有名家電大手の関連事業が中国企業に買収される事例も相次いでいる。パナソニックグループ傘下にあった旧三洋電機の冷蔵庫や洗濯機などの事業は海爾(ハイアール)に、東芝のテレビ事業は海信(ハイセンス)、白物家電事業は美的(マイディア)にそれぞれ買収された。
たった10年間で、なぜこれほど大きな逆転現象が生じたのか。こうした問いに対して、本連載は筆者の経験に基づいて回答を試みる。ただ、あえてここで結論を先に述べてしまおう。筆者は中国製造業の急激な成長の要因として、「情報通信技術と設計製造プロセスや設備の高度な融合」と「国家としての産業育成方針」が挙げられると考えている。
こうした視点から、本連載では中国製造業におけるデジタルプラットフォームの広がりを日本と比較しつつ紹介していきたい。デジタルプラットフォームを取り巻く中国製造業の現況を、代表的な企業の事例とともに解説する。これらを通じて、日本製造業が今後さらに成長していくためのヒントをご紹介できればと思う。
中国では近年、IoT(モノのインターネット)という言葉と同じくらい、「工業互聯網」(英訳:Industrial Internet)というキーワードがはやっている。このコラムでは工業互聯網の日本語訳を、「製造デジタルプラットフォーム」として進めたい。
製造デジタルプラットフォーム上では人や機械、モノ、システムなどを包括的に接続することで、エンジニアリングチェーンとバリューチェーン全体をカバーする新しい製造の在り方やサービス、システムが生まれるとされている。これらを通じて製品の設計や調達、製造プロセスのデジタル化やネットワーク化が実現できる。
製造デジタルプラットフォームによって何が可能になるのか。ここでは、主要な4パターンの応用例と、そこで得られるメリットを紹介しよう。
包括的な産業用インターネットソリューションを展開することで、主要な機器や生産プロセス、工場などの総合的なインテリジェントな制御と意思決定の最適化を実現し、生産効率を向上させ、生産コストを削減する。
産業用インターネットを通じて世界中に分散している設計や生産、サプライチェーン、販売リソースを統合し、コラボレーション設計/製造やクラウドソーシングなどの一連の新しい製造モデルやビジネス方式を作る。製品の研究開発コストを大幅に削減し、製造コストを削減し、製品の発売サイクルを短縮できる。
製造デジタルプラットフォームをベースに、ユーザーニーズを的確に把握し、設計/製造リソースや生産プロセスを柔軟に組織し、低コストで大規模なカスタマイズを実現できる。
産業用インターネットを利用して製品の稼働状況をリアルタイムに監視し、リモートメンテナンスや障害予測、パフォーマンスの最適化を実現するサービスをユーザーに提供する。これによってユーザーは企業変革を目指せる。
先ほど、中国製造業の成長ドライバーの一翼を担ったのが製造デジタルプラットフォームだと述べた。中国政府も製造デジタルプラットフォームの重要性を強く理解しており、新しい時代の製造業のインフラストラクチャとして普及させる方針を打ち出している。
2017年12月、国家主席の習近平氏は、中国共産党中央政治局の国家ビッグデータ戦略実施に関する第2回集団研究で、「製造デジタルプラットフォームのイノベーションと展開戦略を深く実施し、製造デジタルプラットフォームとデータ、リソース、マネジメント、システムの構築を体系的に推進する必要がある」と強調した。それを皮切りに2017年から2021年にかけて、中国のデジタル経済の市場規模は27兆2000億中国人民元(約587兆円)から45兆5000億中国人民元(約982兆円)に増加した。市場規模は年々急速に拡大しており、世界第2位に位置付けられるようになった。
製造デジタルプラットフォームが持つ重要性の高さを認識し、国家レベルで開発を推進していく。この確固たる決意を反映したゆえか、「工業互聯網」の名称は2018年以来、7年連続で国家製造業方針の報告書に登場している。そこでの表現の歴史を下記の図でまとめてみた。
こうした背景もあり、近年、中国における製造デジタルプラットフォームのシステム構築のレベルは目覚ましい進化を遂げている。プラットフォーム上で動くアプリケーションの質が大幅に上がり、共存し得る業界やソリューション、地域、エンタープライズ、消費者間でのプラットフォームの増加や、それらを補完する体系的なプラットフォームシステムの形成も進んできた。
製造業とIT企業は独自の製造デジタルプラットフォームを次々に立ち上げている。こうしたプラットフォームの総数は中国において数百に達するとされている。その内、特定の地域および業界に影響を与えるプラットフォームの総数は50個以上あるとされている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.