大変革時代を迎える製造業。従来の縦割り、属人化したモノづくりから脱却し、全ての工程でのプロセス改革を実現するには、図面データや発注実績などの製品データを活用した部門間連携が欠かせない。連載第1回では製造業を取り巻く変化と、求められる対応方針について取り上げる。
昨今の不安定な社会情勢により、製造業の経営は大きな影響を受けています。材料や部品の調達費が高騰するだけでなく、調達そのものが難しくなりました。サプライチェーンの安定化に多くの企業が苦心しています。
また、ニーズの多様化が進み、製品開発のサイクルが短くなり、少ロット生産の比率も高まっています。設計から調達、製造、販売、メンテナンスなど、製品にかかわる全ての工程において、フレキシビリティの担保の重要性が増してきました。今、製造業は大変革時代を迎えています。
今までの縦割り、属人化したモノづくりでは、この大変革に対応できません。製品にかかわる全ての工程でのプロセス改革が必要です。それを実現するための1つの方法が、図面データや発注実績などの製品データを活用した部門間連携です。本連載では、製造業の直面する問題点と、図面データ活用による部門連携、その効果などについて解説していきます。
皆さん、はじめまして。キャディの白井陽祐と申します。当社は、産業機械など多品種少量でモノを作る領域に向けて、ソリューションを提供するスタートアップです。現在は、産業機械やプラントメーカーなどのお客さまと加工会社の双方と向き合いながら、モノの受発注や図面を取り巻くデータをうまくつなぎ、資産化できる状態を作ろうとしています。
昨今、地政学リスクや労働人口減少などの大きな変革が起こる中で、お客さまや加工会社から「事業の在り方を変えねばならない」といった声を聞く機会が増えています。当社は製造業という巨大産業に深く入り込む当事者でもあり、しかしながら創業5年の新参者でもある、そうした特殊な立ち位置だから見える、これからのモノづくりについて思考し、設計現場の皆さんに対して“あるべき姿”“目指すべき方向性”を提案したいと考えています。
今回はその初回(連載第1回)として、どのような変化が起きているのか? 大枠として、どのような対応方針を持つべきか? について紹介します。
2019年12月に中国の武漢市から始まった、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大。2022年2月に開始したロシアによるウクライナ侵攻。台湾を巡る諸外国の対立。このような地政学リスクの高まりは、世界中の製造、流通活動を停滞させました。材料、部品の調達費が高騰するだけでなく、調達そのものが困難な状況は今も続いています。
調達費が上がれば原価率が上昇し、経営を圧迫します。部品が入ってこなければ、製造そのものができません。納期遅延となるか、あるいは受注ができない状態となります。多くの企業が影響を受け、速やかな対応を迫られましたが、その結果はどうだったのでしょうか?
当社では、ウクライナ侵攻開始から半年が経過した2022年8月下旬に「地政学リスクによる製造業サプライチェーン・調達への影響調査」と題し、サプライチェーンに対する影響、対応状況、成果などについて、製造業(食品、繊維、化学は除く)の経営層や調達および購買担当者などを対象に調査しました。
調査の結果、サプライチェーンの中で最も影響を受けた活動は「海外からの調達」で、7割弱の回答を得ています。調達品への影響は「価格高騰」が8割超で最多であり、「納期遅延」「供給制約」と続きました。影響への対応策で最も多いのは「代替部品への切り替え・仕様変更」であり、次いで「値上げに応じる」の順になります。
しかし、多くの施策が検討、実行されましたが、完了率は全て3割未満という結果となり、思うように進めることができなかった企業が多いことが分かりました。
設計や製造部門では、――代替部品の検討や仕様変更をギリギリまで行っていた。その結果、全体的なスケジュールが厳しくなる。期日が近づくにつれて調達部門の負荷も増大し、価格より納期優先で発注を行っても全く対応できない――といった状況があったかもしれません。急を要する予想もしなかった有事に対し、今までのやり方では通用しないのです。
近年、縦割りの事業構造により、業務のスピード感や柔軟性が失われる問題は、さまざまな業種で指摘され、製造業でも大きな課題となっています。縦割りで自部門の対応のみに終止している状態では、自部門で発生したズレは他部門で蓄積されてさらに大きくなります。これでは緊急事態に対応できません。大変革時代の製造業では、部門間連携を強め、サプライチェーン全体を俯瞰して、製造プロセス全体の最適化を図ることが求められています。
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