小さな企業ながら航空機部品製造や宇宙ベンチャーとのコラボレーションなどを行う由紀精密。倒産の危機からのV字回復や、新たな挑戦を続けるわけを語った。
2015年11月10日に開催された「SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2015」(主催:ソリッドワークス・ジャパン)の基調講演で、由紀精密 代表取締役社長の大坪正人氏が講演した。
由紀精密は30人弱の小さな金属精密加工企業だ。今や数多くの宇宙関連プロジェクトに関わるとともに、独立時計師とのコラボレーションや、ネット経由の操作が可能な小型精密切削加工機を開発するなど、意欲的な挑戦を続けている。だが実は10年前には倒産の危機を迎えていたという。そこからどのようにして宇宙分野を強みに育て、業績を回復していったのかなどを語った。
由紀精密のはじまりは、由紀精密 代表取締役社長 大坪正人氏の父方の祖父が1950年に創業したネジを製作する町工場だ。売り上げのピークは1991年で、それは日本中に設置されていた緑の公衆電話に入っている、カードリーダーの部品によるものだった。その時の顧客はたった1社で、決められた部品を作るという状態だった。だが徐々に樹脂の高性能化が進むなど、金属部品の需要は減っていた。公衆電話の部品が減ると共に他の仕事も増やしたものの、売り上げは下り坂をたどり、2001年のITバブル崩壊で「とどめを刺された」という。
一方、大坪氏は2000年に大学院を卒業して別の会社に入社していた。そこで数年間勤めたのち、2006年に実家の会社に戻った。
会社を立て直すために強みを生かした経営をしたいと考えたが、周辺の人に聞いてもなかなか分からなかったそうだ。そこで顧客にアンケートを取ったところ、思いがけず多かったのが「品質に対する評価」だった。そのため品質を前面に押し出した経営をしようと決めた。
具体的に大坪氏が目標にしたのが、航空宇宙業界への進出だった。航空業界を目指そうと決めたのは、個人的な思い入れがあったからだ。大坪氏の母方の祖父は飛行機乗りで、特攻隊として飛び立とうというところで終戦を迎え、戦後は民間機パイロットとしてYS-11を操縦していた。大坪氏はその祖父から飛行機や宇宙の話を聞いて育った。そのため航空宇宙は身近で憧れの存在だった。そのためこれを何とか仕事にしたいと思ったということだ。
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