会社は小さいが、夢はでかい! 倒産の危機から回復、そして宇宙へSOLIDWORKS WORLD JAPAN 2015(3/4 ページ)

» 2015年12月25日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

「宇宙の環境問題」に取り組む

 今、由紀精密が取り組んでいるのが「宇宙の環境問題」だ。現在、地球の周りには10cm以上の大きさのゴミが2万個以上飛んでいる。これらはNASAによって、位置も誰がいつ出したかも把握されている。ただ10cm以下のものについては詳細は分かっていない。これらは秒速8kmのスピードで高度700k〜1000kmの間を飛んでいる。さらにゴミ同士がぶつかって増えることもあり、人工衛星などへの被害が心配されている。

 由紀精密はアストロスケールや大学の人工衛星の研究者たちと協力し、この課題を解決しようとしている。アストロスケールは民間で宇宙ゴミを掃除しようという初の会社だ。

 「ゴミの落とし方はシンプル」だと大坪氏は話す。

 もう動いていない衛星にはるか遠方から近づいていく。近づくとドッキングして、ゴミが回転している方向に対して反対の噴射を行う。するとスピードが落ちるため、重力によって大気圏に落ちていく。すると空気抵抗が大きくなって発熱し、燃え尽きるというわけだ。近づく衛星には表面に固体燃料ロケットがたくさん付いている。何回かに分けて着火できるのが特徴だ。

ゴミの衛星とドッキングして、逆噴射でゴミのスピードを落として大気圏に落としていく。
宇宙ゴミを掃除するための人工衛星のモックアップ。多数並んでいる丸1つずつが個別の固体燃料エンジン。

一目ですごさが分かる切削加工製品を作る

 由紀精密として展示会に出展している時に悩むのが、アピールの方法だという。部品だけを並べても、何を作っているのかなかなか分からないからだ。そこで普通の人が見ても分かる、最高品質の製品を作りたいと挑戦したのが腕時計だ。

 独立時計師の浅岡肇氏、工具メーカーのOSGと協力して「トゥールビヨン」と呼ばれる機構を持つ時計を製作した。

トゥールビヨンと呼ばれる時計の進み方のずれを防ぐ機構を搭載している。

 独立時計師は世界に数十人しかいない、歯車1つから自分で作り上げる時計専門の職人だ。精密加工の由紀精密と特殊工具を作るOSGが協力することで、より難易度の高い時計を手掛けたという。

 以下の図のような世界最小レベルのサイズのチタン製ねじや、量産機械では作れないような形状をエンドミルで削り出す。

腕時計の内部の機構モデル
直径が1mmのマイクロピニオンギア

 裏側には切削の跡を模様として出していたり、竜頭の形状など随所にこだわりが盛り込まれている。

時計の裏のプレート

 ドイツの時計屋で「自作だ」と言うと、店の中でいろいろな人に回されてなかなか返ってこなかったとのことだ。加工技術の粋を集めたこの機械式時計は年に数個しか作れず、今は予約待ちになっているとのことだ。

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